—第10章:慌ただしい朝
「ん…」
重たい瞼を開けると、見慣れた天井が広がっている。
いつのまに眠ってしまったのだろう。
少し目尻と頭が痛む。とりあえず水を飲もうと思って起き上がろうとすると、肘に柔らかいものが当たる。
ふと視線を横に向けると、そこにはヴェルヴェットがいた。
彼女はシュミーズのまま寝ていて、薄着のため少し胸元がはだけている。
「え…!?ええ!?」
なぜ?なぜこうなっているんだ?完全に混乱状態で周囲をキョロキョロと見渡す。
見慣れた天井なので自分の部屋かと思ったが、ここは自分の部屋ではない。
ほとんど荷物がない部屋、そしてテーブルには自分の故郷の酒が置かれている。
思い出した。探りを入れるためにここで一緒に酒を飲んだのだ。
確か、そこで…昨日の醜態を思い出して赤面する。
女性の前で子供のようにぽろぽろと涙を流し、胸に抱かれて諭されて、そのまま眠ってしまったのだ。
その後はどうなったのか。ここで寝かせてくれたのだろうか。
だとしたらなぜ一緒に寝ているのだ?いや、ベッドが一つしかないからここしか寝る場所がなかったのだろうが…。ああ、頭が回らない。
醜態をさらした場面が頭の中で繰り返し蘇り、唸り声をあげていると、
「ん…」
ヴェルヴェットが声を漏らし、サッとベッドの端に身を寄せた。
「ああ、やっと起きたのね。
あんたを部屋に戻そうかと思ったんだけど、見た目の割に重すぎてめんどうでここで寝かせちゃった、鍛錬して筋肉つけすぎじゃないの」
ヴェルヴェットは起き上がりながら答えた。
「き…昨日のことは!あの、その…」
しどろもどろになって答える。正直、なんと言えばいいかわからない。
聞くのがとてつもなく恥ずかしい。泣いてすみません、などとても言えない。
「泣いてすっきりした?」
唐突にヴェルヴェットが尋ねてきた。
「あ…はい…」
下を向き、恥ずかしそうに答える。
「ならいいよ」
そう言ってヴェルヴェットは微笑んだ。
その姿を見てレオンは確認した。この人は決して怪しい人ではない。
むしろ、この人以上に優しい心を持った人がいるのだろうか。聖王国にいるとされる聖女でもこんな優しく、自分が望んでいた言葉をかけられないだろう。
荒んだ心が癒やされ、むしろ心も体も活力に満ち溢れているように感じた。
「それより、いいの?騎士たちは朝から訓練するんでしょ?」
その声にはっとする。もう朝の7時を回ろうとしている。
もうすぐ訓練の時間が始まる。
「まずい!」
そう言って扉を開け、自分の部屋に戻ろうとするが、廊下から声が聞こえる。訓練前の兵士たちが廊下に出てきているのだ。
どうする?考えた末に、
「このお礼は後日!」
そう言いながら、ヴェルヴェットの部屋の窓から抜け出し、自分の部屋の窓へと戻っていった。
目撃者がいれば完全に言い逃れできない場面だ。
「お礼?後日?なんの?」
お礼を言われるような大層なことをした覚えはない。
ちょっとベッドを半分貸したくらいで、別にあとからお礼を受けるようなものでもない。
「ふふっ、それよりレオンが持ってきた酒があんまりおいしくてあの後全部飲んじゃったのよね。
空の瓶を見た時は怒られるだろうと思ったけど、何も言わなかったし大丈夫みたいね」
そう言って、ヴェルヴェットは先ほどと同じ微笑みを浮かべた
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