近衛隊長交代

セリアラと少女姫が8才になったある日、ちょっとだけ大きな変化があった。

少女姫の近衛隊の、隊長の交代である。

そのことは、正式に発表される前に、現在の隊長であるスカーレットから少女姫とセリアラに伝えられた。


スカーレット「この度、隊長の任を下りることになりました」

セリアラ・少女姫「「えっ!?」」

少女姫「降格ですか?!」

セリアラ「何があったんですか?!」


スカーレットはサラム人の女性だ。

サラム人は主に大陸の西端に住んでいるが、体格に恵まれ戦士に向いているサラム人は、傭兵や冒険者になって出稼ぎに出ることが多い。

スカーレットの祖先もそうしてこの国の為に戦った傭兵の一人であり、その後スカーレットの家系は代々この国に仕えてきた。

スカーレット自身も王家からの信任は厚く、そんな人物が降格になるというのは一大事と言えた。


スカーレット「いいえ!そうではありません! …姫様たちも聞き及んでいませんか? 最近新たにドラゴンスレイヤーとなった者のことを」


その噂はセリアラも少女姫も聞いていた。

ドラゴンは最強の魔物と言われているので、ドラゴンを倒した者はドラゴンスレイヤーと呼ばれ、称えられる。

そして、最近、ある男がグリーンドラゴンを単騎で討伐したと云うのだ。

グリーンドラゴンはドラゴンの中では最も弱いと言われているが、それでも一人で倒すのはかなりの強者でないと無理だ。


セリアラ「それは聞いたことがありますけど…。それとスカーレット様が隊長をやめることに、何の関係があるのでしょうか?」

少女姫「もしかして、その方が新しい隊長になるのですか?」

スカーレット「さすがは姫様、ご明察です。その者は我が国の傭兵団の一員でした。そこで、論功行賞として、姫様の近衛隊の隊長となることになったのです」


いわば名誉職として『近衛隊の隊長』という肩書がドラゴンスレイヤーの男に与えられたというだけであり、そのために名目上、スカーレットの地位は副隊長に変わる。

しかし実務は今まで通りスカーレットが担うことになるはずだ。


スカーレット「ですから、実質的には今までと何ら変わりません。…隊長から副隊長になるので、降格なのは確かですが」

少女姫「いいえ、降格ではないということはよく分かりました」

セリアラ「そういうことなら…良かったです」


セリアラ「それにしても、ドラゴンスレイヤーですか…どんな人なんでしょうね?」

スカーレット「ワタシもまだ会ってませんが…この目で見極めてやるよ…姫様に相応しいかどうか…!」

セリアラ「ひゃー~」

少女姫「お手柔らかにね…スカーレット」

スカーレット「おっと、失礼。少々素が出てしまいました…!」


目をらんらんと光らせるスカーレットを見て、セリアラと少女姫は苦笑した。

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