第27話 黒い氷

トコ姉ちゃん(仮名)は、矢芝の母方の従姉妹いとこで、10歳ほど年上でした。


大学に通うため上京していて、近県にあった矢芝の実家に、時々遊びに来ていました。


トコ姉ちゃんは、夏休みになると、小学生の矢芝を、東京に遊びに連れて行ってくれました。


そして、よく喫茶店に入りました。

矢芝は、クリームソーダ。

トコ姉ちゃんは、アイスコーヒー。


「叔母ちゃん(矢芝母)には内緒ね」

と言って、トコ姉ちゃんは煙草をふかします。


そして、アイスコーヒーの氷を見て、


「ほら、この店は氷もコーヒーで作ってある。これだと氷が溶けても、コーヒーが薄くならないんだよ」


と、言いました。


確かに、アイスコーヒーの中に黒い氷が入っています。


けれど当時は、その意味がよく分かりませんでした。


小学生の矢芝には、コーヒーの黒い氷より、

緑色のソーダの中の、赤いサクランボの方が、魅力的だったので。


でも、大人になって、

アイスコーヒーの氷が溶けるほど、長居することを覚えて、

トコ姉ちゃんの言ってたことが分かりました。


最近は、喫茶店がどんどん無くなって、アイスコーヒーの黒い氷も見かけなくなりました。


それでも、まれに黒い氷を見つけると、矢芝は語りたくなるのです。


「この氷は、コーヒーで作ってあるからね………」

と。



黒い氷を教えてくれたトコ姉ちゃんは、

子供の矢芝に、ちょっぴり大人の世界を見せてくれた人でした。








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