第5話 食材の質


 翌日。

 王様の別荘ということもあり、布団がしっかりとしたものだったため、久しぶりにぐっすりと眠ることができた。


 長らく病院生活だったし、仕事を辞めてからも飛び起きるように目覚めることが多々あったからな。

 異世界という特殊すぎる場所に来たからこそ、久しぶりに熟睡できたというのは何とも変な感じ。


 私はそんなことを考えつつリビングに向かうと、シーラさんが既に起きており、なんと朝食を作ってくれていた。

 ハムエッグにフランスパンのようなパンというシンプルなものだが、女性に作ってもらえる食事というだけでとにかく嬉しい。


「シーラさん、ご飯を作ってくれたんですね」

「ええ。寝床を使わせてもらってますので、身の回りのことは私がやらせて頂きます」

「ありがとうございます。……ただ、そこまでやらなくても大丈夫ですよ。食事作りは1日交代でやりましょう」

「佐藤さんがそう言うのであれば……。でも、本当にいいのですか?」

「はい。異世界流の料理が嫌だとかがなければですが」

「あっ、佐藤さんの作る料理は特殊なのですね! ふふ、食べるのは好きなので楽しみです」


 そう言いながら笑ったシーラさん。

 シーラさんは基本的に無表情であり、護衛の件を話した時に嬉しそうにはしていたが、笑った顔を見るのは私の能力値を教えた時以来。


 自炊はしていたが料理人ではなかったため、期待され過ぎると困るのだが……。

 シーラさんに喜んでもらえるよう、明日の料理は頑張ろうと心に決めた。


「こっちの世界の食べ物も知りませんし、特段変わった料理ではないかもしれませんが頑張ります。それでは頂いてもよろしいですか?」

「もちろんです。お召し上がりください」


 私は食前の挨拶を行ってから、シーラさんが作ってくれたハムエッグを口にいれる。

 美味い! ……と言いたいところだったが、正直卵が変な味であり、ハムも独特な臭みのようなものがついている。


 これはシーラさんの料理の腕が悪いのではなく、単純な食材の質の問題だろう。

 それに王城から持ってきたということは、この世界では質の良いものだろうし、日本とは単純に文明レベルが違うのだと思う。


 まぁ超薄味だった病院食とどっこいどっこいだし、食べられる味であることは間違いない。

 せっかく作ってくれたシーラさんを悲しませないよう、口では美味しいと伝えつつ、頭の中では『異世界農業』で何とかできないかを考えたのだった。



 朝食を済まし、ここから夜まで制限のない自由な時間。

 美味しい空気を目一杯吸い込み、このままなにも考えずに裏山に行きたいところだけど、まずは『異世界農業』がどんなスキルなのかの確認が先。


 水晶で効果を見たものの複雑な内容だったし、実際に使ってみないと分からないことの方が多い。

 私の身を守るためか、少し離れた位置からシーラさんが見ているが、特に隠す必要もないため目の前に広がる草原に体を向けて、『異世界農業』のスキルを発動させた。


 心の中でスキル名を唱えると、目の前の草原の一部が一瞬にして農地に変わった。

 まさに『異世界』といった現象に心が躍るが、現れたのは農地だけでなく、iPadに似た端末のようなもの。


 画面の右上には時間が表示されており、更に左上部にはNPの文字があって、現在のNPは500。

 そして画面全体に表示されているのは、Amazonのサイトのような商品欄。


 本当に色々な項目があり、食品系から日用品、家具や洋服なんかがあるのはもちろんのこと……。

 水晶の説明にあった通り、魔物、スキルの習得、スキルの強化、能力強化、魔法の習得もNPによって行えるようだ。


 ちなみに値段なのだが、この世界のものは安価で購入でき、異世界――つまり日本のものは非常に高い。

 この世界の卵は10個で2NPなのに対し、日本の卵は10個で60NP。


 その他の商品も色々と見比べているが、やはりどれも30倍近い値段設定にされている。

 1NPが大体100円くらいの価値だと考えると、卵1パック6000円は流石に手が出せない。


 ……が、今日の朝食でこの世界の食べ物のレベルの低さを体感しているため、いずれ買いたくなってくるのは目に見えている。

 生活を豊かにするためにも、農業を頑張らないといけない。


 気合いが入ったことだし、早速野菜の種を購入して農作業を行いたいところだが……まずは目ぼしい商品を詳しくチェックをしてから。

 魔物の欄をタップして、購入できる魔物の値段を見てみることにした。


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