第4話 別荘
馬車に揺られること約30分。
魔物に襲われるということもなく、無事に王様の別荘に辿り着いた。
小さな家と言っていたが、十分に大きい上に造りもしっかりとしている。
そして王様のお話にもあった通り、目の前には広い草原が広がっており、家の後ろにはしっかりとした山がある。
想像していた田舎暮らしと比べると少々ワイルドではあるが、辺り一帯の自然にテンションが上がってしまう。
「佐藤さん、こちらが別荘の鍵です。それと……先ほどのお話。本当にお受けしてよろしいのでしょうか?」
シーラさんが言っているのは、馬車の中で話した護衛の任務を解く件について。
別荘に着くまでの間にしっかりと話をすることができ、護衛の任務を解く件を伝えることができた。
私のことを佐藤さんと呼んでくれるのも、ちゃんと話しをすることができたからである。
「もちろんです。シーラさんには一方的に迷惑をお掛けしていますので。ただ、先ほども伝えた通り、慣れるまでは護衛して頂けますか?」
「もちろんです。佐藤さんをお守りするのが今の私の仕事ですから。……お気遣い頂き、本当にありがとうございます」
「お礼なんていりません。それより、シーラさんはどこで寝泊まりするのですか? 遠くない距離ですし、王都に戻ったりするのでしょうか?」
「いえ、できればこの別荘の一室をお借りしたいのですが……駄目でしょうか?」
そんな言葉に私の心臓は跳ね上がった。
何を隠そう、私はこれまで女性の方とはお付き合いしたことがない。
中高は一貫の男子校であり、そのせいもあって大学では女生と録に話すことすらできなかった。
社会人になってからは残業に次ぐ残業で、プライベートはないに等しいせいで恋愛どころではなかった。
そんな私がいきなり女性と1つ屋根の下で暮らすとなったら、緊張しないわけがない。
本来なら別の建物を用意してあげたいが、近くには何もないし、ここで寝泊まりできないのであれば、シーラさんは野宿ということになってしまう。
私は不審だと思われないよう、焦っていることを態度には出さず、毅然とした態度を見せる。
「ええ、もちろん大丈夫です。2階がありそうですので、シーラさんは2階の一室を使ってください。私はできる限り2階には立ち入らないようにしますので」
「ありがとうございます。それでは2階の一室を使わせて頂きますが、2階も遠慮なく利用してくださって大丈夫です。失礼だとは思いますが……佐藤さんよりも私の方が強いので襲われる心配をしておりません」
「そういえば能力を教えたんでしたね。私ってそんなに弱いのでしょうか?」
「……ふ、ふふ。……笑ってしまってすみません。一般的に見て、子供よりも弱い能力値だと思います」
シーラさんは私の能力値を思い出し、思わず吹き出した様子。
それくらいには弱いということであり、そんな私に襲われても怖くないと思われたということ。
シーラさんが安心して寝泊まりできることは嬉しいが、笑われるくらいに弱いという事実は少し悲しい。
せめて笑われないくらいには強くなろうと、私は密かに心に決めた。
「やはりそうなのですね。私の弱さで、シーラさんが安心してくれたのなら良かったです。ただ、本当に弱いですので守ってくださいね」
「ええ。私のことを考えてくれている佐藤さんには感謝しかありませんので、命を賭けて全力でお守りさせて頂きます」
「よろしくお願い致します」
若い女性にそう言われるおじさん。
普通は立場が逆な気もするが、気にしないようにする。
とりあえず今日は別荘の中を軽く探索してから、早めに就寝するとしようか。
異世界に転生というあまりにも非現実なことが起こったが、悪い人達の下に転生しなかったし上手くやれそうな気がしている。
明日はこの家の周りを探索した後、スキルについても調べたい。
『異世界農業』のスキルが少しでも役に立ってくれればいいのだが……あまり期待はしないようにしよう。
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