5 佐藤 大郎 ③

 暗い寝室の布団で眠る、愛娘。隣で添い寝して、その安らかな寝顔をじっと見つめる。


 一緒に居られなくて、ごめんな。


 寝室を出て、リビングに居る妻の前に座る。

「あら、どうしたの?」

「離婚しよう」


 私は風俗嬢との浮気の証拠をテーブルの上に広げた。熱愛をほのめかすメッセージアプリの履歴のコピー。ラブホテルに入っていく私と女性の写真。それから、女性と性行為をしているところの写真の数々。

 女性を買う金はすべて経費で落ちたし、慰謝料は白スーツの男が渡してくれた。義父母は会社に抗議の電話をしたが、彼らは私の不祥事はすべて揉み消した。


 私は、家族を捨てた。


 それから、どれだけの年月が経っただろう。


 私の仕事はどんどんと裏稼業と密接になっていき、口座の預金だけが膨れ上がっていった。当然口止め料だった。その額面が、仕事の危険さを物語っていた。

 私はある日、思い立って三日間の有休を取った。娘が生まれる時すら取らなかった、初めての有休だった。

 事情を知っている唯一の上司は、私の顔のやつれ具合を見て、何も言わずに承認した。

 ホームセンターで一番丈夫なロープを購入した。紙とペンも買おうか迷ったが不要だと結論づけた。自分の不貞で離婚した家族に残すべき言葉はなかった。

 レジで財布を開いた時、奥から昔の名刺が出てきた。そこには「佐藤太郎」と書かれていた。誤植の名刺をまだ処分していなかったようだ。後でごみ箱に捨てておこう。


 駐車場に戻ると、自分の車の前に白スーツの男が立っていた。

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