4 天野 宇宙 ①
――――あーあ、またおねしょしちゃった。
ぼくの名前は天野宇宙。宇宙って書いて「こすも」って読むんだ。変わった名前だけど、けっこう気に入ってるよ。
「こすもさん、おねしょしたら教えてくださいっていつも言ってますよね」
しょくいんさんは、ぼくのベッドを片付けながら、困った顔をしていた。
ぼくはしせつのお世話になってる。このしせつにはぼく以外にも、身寄りのない人たちが大勢くらしているんだ。
ぼくも早くに両親を亡くして、頼れる身内も久しくいない、てんがいこどくの身。ここにいるのは必然ってやつだね。
「それから、ご飯はもう食べ終わったんですか?」
ぼくはうなずく。すると、ほおを平手打ちされる。
「食べたらごちそうさま、ですよね?」
しょくいんさんはシーツを取りかえると、食器類を持って部屋を出ていく。しょくいんさん、ごめんなさい。ぼくは心の中でおじぎをする。ぺこり。
さて、気を取り直してゲームの続きだ。
ぼくはコントローラーを手に取り、テレビのモニターに目を向ける。そこはあれ放題のビルぐんで、画面のりょうはしから右手と左手がのびている。この両手がぼくの分身だ。右手にはマシンガンを持っている。左手は銃身に添えるだけだ。
物かげに身をひそませ、あせらずに周囲をかんさつする。向かいのビルから人のかげがのぞく。今だ!
ぼくはコントローラーの○ボタンをおして、マシンガンをぶっ放す。コントローラーが弾丸の射出に合わせて小きざみにしんどうする。人が血しぶきをまき散らしながらたおれていく。これで九八五人目だ。あー、楽しい。
「こすもくん、またゲームしてる」
いつの間にかぼくの部屋には咲ちゃんがやって来ていた。入口で不満げな顔をしながらこちらを見ている。
咲ちゃんは目が大きくて、かわいい。笑うとその大きな目がかくれるくらい顔がしわしわになるのもキュートだ。咲ちゃんを見てると、しんぞうがどきどきしてくる。こんなこと、久しぶりだった。ふせいみゃくだって言われた。心配だ。
でも、そのどきどきは、人を殺す時の感覚とも似てるんだ。
「ねえ、ゲーム楽しい?」
咲ちゃんは車いすを転がして、ベッドでコントローラーをにぎるぼくに近付いてくる。咲ちゃんはこの前てんとうして左うでを骨折していた。今も左うではギプスだから、右手だけでなんとかホイールを回して、こちらに近付いてくる。
ぼくのしんぞうははやがねを打つ。
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