2 北大路 義雄 ⑥

 次に目を覚ましたのは知らない天井、刑務所の独房のようなコンクリート打ちっぱなしの六畳間。壁際に植え込まれた観賞用植物は、よく見ると血飛沫を浴びせられて赤黒い斑点が出来ていた。それは、ここでかつて起きた惨劇を彷彿とさせる。天井の隅には、よく見るときらりと光るものが見えた。隠しカメラ。僕を見ているやつがいるみたいだ。


 しばらくするとモニターが点灯する。映された男は黒いフードを目深に被り、その顔には縁日で売っているようなお面をつけていた。


『君たちの質問には一切答えない。単刀直入に言おう。君たちには殺し合いをしてもらう』


 男は淡々と殺し合いのルールを説明する。僕には不思議と、それが現実味を持って聞こえてきた。

 それもそうか。既に僕は人を殺めてるんだから。

 おそらく、僕が殺した男たちの仲間が、復讐として僕をここに送り込んだのだろう。

 説明された通り、宝箱を開くと、中には見知った一丁の銃と、薬莢が十個。


 『武器:猟銃』


 二時間生き残り、かつ一人死んでいればいい。そんなルールだった。

 猟銃がある限り僕に負けはない。それに、山に比べれば、ずっと安全だ。


「……順番だ」


 気が付くと、扉の覗き穴から、男がこちらを見ていた。郵便受けくらいの大きさだから、目元しか分からない。

 僕は覗き穴から足音が去っていく方を見る。後ろ姿だけで筋骨隆々なのが見て取れた。黒いスーツに身を包み、顔には入れ墨が入っていた。モニターに映し出された参加者を見る限り、彼が一番の強敵だろう。


 だが、僕は負ける気がしなかった。


 男の位置情報が部屋に戻るのを待ち、部屋の外に出る。施錠するカードキーには『B』という文字が刻まれていた。

 廊下には赤と緑の薔薇が飾られていた。廊下の一端は閉ざされた大扉で、玄関だと分かった。もう一端は行き止まりになっていて、そこには何もなかった。

 最後に中央の広間に出る。床に固定された大食卓と鎖で繋がれた椅子のほかには、何もない。派手な電灯のぶら下がった天井は鏡張りだ。自分の顔を見上げながら僕は考える。


 不思議だ。


 さっきまで死のうと思っていたのに、いざ殺し合いをしろと言われると、生き残りたくなるのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る