第8話 大晦日。クリスマスじゃないけれど

 カラオケから5日が経ち、今日は大晦日。

 外は寒いにも関わらず、大騒ぎといったところだ。

 ついこの間までクリスマスで騒いでたのに、よくやるよ。

 そう思いながらゲーミングチェアから立ち上がる。

 そして──。


「おい、悠輝。お前、人ん家の食いもんを食ってんじゃねえ」

「ん……?食った」

「食った後じゃなくて前に言え!」


 俺の戸棚に先ほどまであった高級せんべいを箱ごと全部食った悠輝に俺はキレていた。

 それ、マジで高かったんだぞ。

 俺が怒鳴りつけたにも関わらず、悠輝は食う手を止めず、新しいせんべいへと手を伸ばす。

 俺はその手をパシンッと叩き落とした。


「……なんだよ」

「なんだよじゃねえよ!お前、人の家に勝手に泊まり込むと無理やり上がり込んだ挙句、勝手に食いもんを荒らすって、常識を疑うぞ!」


 俺の説教に悠輝は「まあまあ」となだめる。


「うんうん。確かに悪かった。せんべいを食い散らかしたことは謝ろう」

「いや、そもそも俺はお前が泊まり込むと言っている辺りからずっとキレてるんだが……」

「だが、しかしだ。お前はである程度稼いでいるじゃないか。なら少しくらい許したっていいじゃねえか〜!親友〜!」


 悠輝はそう言って俺に抱きつこうとしてくる。

 俺はすぐさま悠輝から距離をとり、ついでにせんべいの生き残りも回収しておいた。


「あ!俺のせんべい!」

「お前のじゃねえよ。俺のだバカ」


 俺はそう言って、せんべいを戸棚のかなり奥へ戻す。

 もう取られたくないからな。

 ってか、身長が足りないせいで少し苦戦するな……。

 俺がなかなかせんべいを戻せずに悪戦苦闘していると、悠輝がとあることを聞いてきた。


「そういえば束咲。最近ははどうだ?」

「ん?ああ……、それならっ!ずっと右肩上がりだよっ!……ふう、やっと仕舞えた」

「そうか。でも、その仕事はずっとは儲からないだろ」

「そりゃそうだ。勝たないと意味がないからな」


 足が疲れたので椅子に座ると、アメが「にゃー」とご飯を求めてくる。

 そういえば、もう夕飯だったな。

 俺はため息を吐きながら、再び戸棚を開けてキャットフードを取り出した。


「ほれ、アメ。ご飯だぞ〜」


 皿にキャットフードを載せると、アメは勢いよく食べ始める。


「おお、豪快に食べるなあ。こっちの腹まで空いてくるよ……」

「こっちも飯にするか。お前は適当にリビングで暇を潰してろ」

「手伝わなくてもいいのか?」

「お前が手伝うと、キッチンが焦土になる……」

「お前、俺のこと何だと思ってんだよ……」


 悠輝は悪態をつけながらリビングへ行ってしまった。

 さて、本日作りますは唐揚げです。

 俺は油が入っている鍋を、冷蔵庫から鶏肉を取り出した。


「……あれ?片栗粉がねえな」


 買い忘れたか?

 しゃあないし、買ってくるしか……。

 あ、ちょうどいいパシリがリビングにいるじゃありませんか。


「悠輝、悪いんだけど片栗粉買ってくてくんね?」

「ん?ああ、良いぞ。他に買って欲しいものはあるか?」

「待ってくれ……。いや、片栗粉だけでいいぞ」

「分かった」


 悠輝はリビングのこたつから名残惜しそうに出ると、上着を着て、そのまま外に出て行った。

 こう言う時だけ頼りになるなあ。さすが陸上部。

 俺は感心しながら味噌汁でも作っていようと別の鍋を取り出す。

 その鍋をコンロに置くと、ピンポーンとインターホンが鳴る。


「あいつ、もう買ってきたのか?まだ30秒も経ってないぞ……」


 俺は通話画面を見る。

 そこには──。


「若山、お前何しに来たんだよ」

『や、冴木。来ちゃった♡』

「帰れ」


 通話終了のボタンを押す。

 するとまたピンポンとインターホンが鳴った。連打でピンポンピンポンピンポンと──。


「分かった!開けるからピンポン連打やめてくれ!」


──────────

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