E  誰かのためになりたい

episode E-1 贖罪のつもりだった

「桜を作らせたのは、親がしてしまったことへの贖罪のつもりだった」

 ZTロボットが教えてくれた過去の話になると、浄瑠璃は蒼い前髪の下、同じ色の美しい瞳を震わせて僕に懺悔した。

「贖罪って、子供の浄瑠璃は悪くないじゃん」

「それは……」

 僕の台詞にはっと驚いた彼は顔を上げ、

「桜の両親にも――、親の罰を受けなくていい、子供はいらないって言われたよ」

 二年前の両親の言葉を僕に伝えてくれる。

「ほらやっぱり。浄瑠璃は今でも罪の意識から逃れられないみたいだけど、結局僕を誕生させたんだし――、もう昔のことを気に病む必要はないんじゃないかな」

 僕はそう言って椅子を後退させ、自分の姿がカメラによく映るよう姿勢を決めた。しかし、浄瑠璃は僕の期待に反して両手で頭を抱える。

「でも、でも命に関わる病気だったなんて! 知ってたらこんなこと……」

 彼は今まで僕の両親が病気だと知らなかった。先ほどの僕は二人が行方不明で死んだだろうことしか話さなかったらしい。

「しょうがないよ、黙ってるのが悪いんだもん。お父さんもお母さんもぎりぎりまで僕にすら言わなくて、だから――」

「待った桜、待った」

 僕がカメラの埋め込まれたディスプレイにまくしたてると、浄瑠璃が頭からどけた腕で僕を制した。

「俺今、ひどいこと言ったなと思ったのに、大丈夫か?」

 えっ、と驚かされる僕。ひどいことを言った申し訳なさが感じられないのはきっと彼の普段通り、僕はそこに惚れたのかもしれない。

「大丈夫かどうかは……、何がひどいの?」

 情けないけど分からなかった。刹那目を泳がせた浄瑠璃が向こう側に接近し、その顔に深い陰影ができる。

「だから、牧野さん夫妻に子供はいらないって言われたことを桜に教えちゃって、病気だと知ってたらこんなことしなかったって俺の気持ちも言ってる。どっちの言葉でも桜は存在しなくなるだろ。俺は黙ってるべきだったんだ」

「うー……ん、それはそうだけど、誰も僕をわざとなくそうとはしてないじゃん。僕はどんなことでも教えてほしいよ」

 これは恋ではないかもしれないが、僕は浄瑠璃を哀しませたり傷つけたりしたくない。原因が僕になくても。すると彼は下がって首をひねり、遠い僕たちの会話を脱線させる。

「俺――、贖罪って言っときながら罪の意識なさそうだろ?」

 おっと何だ、気遣いすべき時の態度が淡々としすぎてる自覚はあったのか。僕は反応に困って口をつぐんだ。

「自己弁護、言い訳じゃないけど、俺、学校でも謝罪の姿勢が見えないって叱られて、だからこれからの俺の態度が真剣に見えなくても気を悪くしないでな。あんまり桜を傷つけたくない」

「そんな、態度なんて……。話してくれれば、それで」

 僕は機械のくせに緊張で無駄に空気を吸い込み、枠の白いウインドウの向こうに輝く蒼い瞳を見つめる。浄瑠璃はやたらとまばたきをくり返して下を向いた。

「それで実はその、桜にはまだコンピューター、ロボットが話してないことがあって――」

 え、と驚きがさらに僕を強張らせる。

「あの時、俺は牧野さん夫妻に何かせずにはいられなかった。だって事故で、事故のせいで起きたのは、飛ばされただけじゃなくて」

「何があったの?」

 僕が割り込んでも泣きそうな浄瑠璃は顔を上げない。

「それが――、サーバー事故が直接、事故が奪っちゃったんだ……、さくらちゃんの命を」

 人間みたいにひくっとなった。

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