第6話 生徒会室での居場所

 カロリーナは魔法の力が強く、金以外のすべてを網羅している。ほとんどの人間は、火なら火、水なら水、どれかひとつが得意で他はできないことが多い。時に、2つできる人もいるが、4つもそれも最高値までできる人はなかなかいるものではない。


 カロリーナはそんなまれな人間だ。

 だから、私の異変に気が付いたのかも。

 生徒会室で、ぼんやりとカロリーナを見ていた。


「うわっ」

「何ですか」

 いきなりの大声に顔をあげると、ドアからノアが入ってくるところだった。

「なんで、エマ、エマ嬢が?」


 立ち上がりくるりと私に向かい手を差し出したカロリーナは、

「今日から生徒会で仕事をしてもらいます」

「え? でも」

 眉を上げたカロリーナは、

「あら、王太子様は以前からエマ様を生徒会に入れると息巻いておいでだったでしょう? あなただって」

「そ、そうですけど。でもそれは頓挫して」

「せっかくみなさんの了承を得たんですから喜んでくださいな」

 にっこりと笑みを浮かべるカロリーナ様に勝てるものはいないだろう。


 生徒会はカロリーナが副生徒会長だ。

 王太子様であるランドルフが生徒会長ではある。が、王太子はまだ学生と言えども、次期王となるわけで、学園以外に外交やら会議やら勉強を兼ねた仕事もあるので忙しい身なのだとか。てなわけでほとんど名前だけで相談役的な位置にいる。実質カロリーナが生徒会長と言っても過言ではない状態なのだ。


 で、まあ、原作では王太子はいつも一緒にいたいエマを生徒会に入らせるという、独裁政権を発揮したわけで。

 完全私物化じゃん、といえる。が、カロリーナはそれをよしとせず、エマが入るのを反対していた。

 ノアやバーナード、フレディも生徒会役員で、他にも令嬢のベシー嬢、ロザリン嬢、アン嬢が役員だ。それと。


「遅くなりました」

「デリク、騎士の訓練はいいんですか?」

「もう終わりました。バーナードがあとから来るとか。ノア、聞いてるか?」

 とカロリーナからノアに顔を向ける。


 飛び上がったノアは、

「生徒会の邪魔になるから来ないように伝えてきます。あ、それから自分もちょっと」

 ちらりと視線を向けたカロリーナがはらうように手を振った。

 ばたばたと出ていくノアを不思議そうに見送ったデリクはこちらの存在に気が付いたのか、眉を上げ、

「こちらは?」

 とカロリーナにお伺いを立てる。


「エマ嬢です。エマ・サザランド男爵令嬢。今日から生徒会で仕事をしてもらいます」

「エマ? ああ」と訳知り顔を向けられたが、カロリーナが、

「そういうことはありませんから」

「は?」

「今、デリクが思い浮かべたことは何もありません。それと、お前は何ともないのですか?」

 片眉を上げたカロリーナをデリクは不思議そうに眉間にしわを寄せる。


 やっぱり似てる。

 カロリーナとデリクはいとこ同士なのだ。

 デリクは騎士団の団長の息子で、日々訓練に明け暮れているとか。原作ではちょろっとしか出てこないいわばモブで。攻略対象でもなかった。

 そのせいなのか、もしかして筋肉おばけなのか、私の薬の効き目があまりないようだ。


「エマ嬢、俺はデリク・バーンズだ。一応生徒会役員のひとりだ。よろしく」

 と明るく手を差し出してきた。

「あ、はい、よろしくお願いします」

 と手を差し出し握手をしようとしたが、瞬間、デリクが「うっ」と言うと座り込んでしまった。

「わわわ、大丈夫ですか」

 これは薬発動! ってことよね。カロリーナもその様子を見ると、

「接触で効き目が表れるパターンもあるのですね。なるほど、なるほど」

 と妙な関心をしている。


「うううう」

 と唸ったデリクは、

「どういうことですか」

「ああ、エマ嬢は今、特殊な病なんです。だからそういう症状が出たりするけど、命に係わるわけではないから大丈夫」

 にこっとするカロリーナに、デリクはまるごと信じたようで、

「なるほど、それは」

 とこちらを見やると、

「早く治るといいですね」

 と言いつつ、微妙な距離感を取っていった。

「はあ、すいません」


 肩をすくめて私たちの様子を見ていたカロリーナは、

「じゃあ、エマ嬢には、今日から資料の整理をしてもらいましょう。あちらが資料室になっていますから」

 と生徒会室の中にある、ドアを指し示す。

 ドアをあけると、中は小部屋になっていて、背の高い本棚が縦に列を作っている。

 端にはテーブルとイス。

 何だか図書館の学習スペースのようだ。


「ここにあるのは、今までの生徒会の仕事内容や、その時々の生徒が持ち込んだ本なんかも雑多に押し込められているのよ。片付けようと思ってもなかなか進まなくて。ここの整理をしていただきたいのですけど、いかがかしら」

 申し訳なさそうに言ってくるが、ここはいわば私の逃げ場だ。

「ここにいれば、先生方にも申し訳がたつから、いつでも使ってちょうだい」

 カロリーナの微笑みにまじで惚れそうなんですけど。


「ありがとう、カロリーナ様。本当に良い方なんですね」

 自然とこぼれる笑みに、カロリーナの目が少しばかり見開かれ、頬がぽっと染まるのがわかった。

「あ、そんなに気にしないで」

 くるりと踵を返したカロリーナは、

「わからないことや、困ったことがあったら何でも聞いてちょうだい」

 すたすたと副生徒会長用の椅子に向かっていった。

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