1-9.敗者には賠償請求するよ〜!

  グロー歴523年8月6日 雨



「···うぅ~~。あ、頭が痛い···」


「···アキ、おはよ。···だいじょぶ?」


「あぁ~~。ごめんね···、ハル···。今、何時かな···?」


「···午前8時」


「じゃあ起きるよ···。ここまでひどい二日酔いは初めてだなぁ~」


「···あれだけ飲んだんだもん。···仕方ないよ?···お水持ってくるね」


「ありがとう···」



 昨日は夕食の乾杯を邪魔されてダイブたち異世界の神と酒合戦をやったんだ。もちろん、ボクが勝ったわけだけど···。


 ビール樽ジョッキ20杯、ワインは樽ジョッキ3杯も飲んじゃったんだよ···。


 ビールは結構度数が低かったからたくさん飲んじゃったんだけど、どうも歳のせいで酔いの回りが遅かっただけで、勝ってしばらくしたら一気に酔いが回って記憶がないんだよ···。あの後どうなったんだろうね?


 ハルが水を持ってくると同時にモンドくんとフーちゃん、それにレオも入ってきたよ。



「じーちゃん!おはよ!···かおいろわるいぞ〜?」


「じーじ!おはよ〜!だいじょぶ〜?」


「おはよう、アキ。一応警備しておいたが問題なかったぞ」


「みんな···、おはよう···。ごめんね。心配かけちゃった」


「きのうはじーちゃん、すごかったな〜!」


「フーもそうおもった!カッコよかったよ!」


「ははは···。こんな情けない姿を見せてもそう言ってくれるんだね。ありがとう。そういえばレオ?あの3人はどうなったの?」


「あぁ~、その件なんだがな···。昨日負けたら飲食代払うってアキが大声で宣言してただろ?酒場のおっちゃんもちゃんと聞いてたから、飲食代はうちらの夕食込みでアイツらが払うことになってるな。今、アイツらは酒場の隅っこで縄で縛られて寝転されてるぞ」


「そう···。ちょっとやり過ぎちゃったかな?」


「そんな事ないぞ?本当ならアイツらが動けなくなった状態で、アキが神殺しの短剣を刺す事もできたからな。アイツらの核を奪わないだけでも十分優しいさ。もちろん、アキが倒れた後はみんなで警護してたから、アキは安心していいぞ〜」


「ありがとう。そういえば朝食ってみんなどうしたの?」


「···まだ。アキが起きてから一緒に行くつもりだった」


「そうなの!?じゃあ、すぐに行こうか!」


「ははは!アキ、慌てるな。まだ寝坊助のリオも起きてないんだ。まぁ、そろそろ叩き起こされてるだろうから、準備しといたらいいぞ」


「今日はどんな起こされ方なんだろう···?」



 そうしてゆっくりと準備していると···、壁越しに···、



『アハハハーーー!!や、やめてーーー!!アハハハーーー!!ちょっとーーー!?そこはーーー!?アハハハーーー!!』



 ···リオの笑い声が聞こえたんだ。今日はこそばしてるんだなぁ〜。リオの弱点は翼の付け根付近ってみんな知ってるからね。



 そしてみんなで遅めの朝食にした。リオは笑い泣きし過ぎて目に涙がちょっと浮かんでるね···。



「あー、今日もひどい目にあったぞー」


「今日はくすぐられたんだね。まぁ、痛みを伴わないから優しい方じゃない?」


「笑いすぎておなか痛いぞー」


「あぁ~、そっちね···。横隔膜やられちゃったかぁ〜」


「そういえば、アイツらはどうなったんだー?」


「あそこに寝転されてるけど···」



 本当に簀巻きにされてミノムシ状態だよ···。某生意気な勇者に捕まった魔王みたいだなぁ〜。


 まぁ、もう勝負には勝っちゃったんだから、相手せずに放置でチェックアウトするか!


 そう思ってたら酒場のおっちゃんから声をかけられたよ。



「よう!おはようさん!ちょっと聞きたいんだが、いいか?」


「いいですよ。昨日はご迷惑おかけしました」


「気にすんな!暴れられて壊されるよりマシだからな。聞きたい事ってのはアイツらなんだが···。本当に知らんヤツなんだな?」


「はい。ホント、迷惑でしたよ」


「金持ってないって言ってたが、憲兵に突き出した方がいいか?」


「あぁ~···、働いて返させます?」


「役立つとは思えんのだがね···」



 う〜ん···。これじゃあボクたちも食い逃げみたいなものだからね。イート&ランはダメ、ゼッタイ!


 ボクが悩んでいると、レオから助け船が出された。



「アキ?戦いに勝ったら賠償請求できるだろ?アイツらからGPを強制徴収して換金したらいいぜ!」


「あっ!?そういう手があったか!ジールがなくてもGPなら持ってそうだね!」


「アキ、朝食終わったらいったん部屋に戻ろうぜ。オレが巻き上げるわ!」



 という事で、ボクがチェックアウトの時に立替すると伝えたらおっちゃんは安心したよ。36万ジールか···。結構飲んじゃったからなぁ〜。


 部屋に戻ってからはレオはナビモードになってボクのスマホに入り、賠償請求の手続きを始めた。


 GPは『神様銀行』というところで一括管理がされており、GP使用時に口座から随時引き落とされる方式だ。今回はアイツらの口座にそれぞれ12GPをレオが賠償請求してくれたよ。1GPは1万ジールに換金できるんだ。···航空会社のマイルと同じだなぁ〜。


 賠償請求はいったん世界創世神様が内容を精査してから裁決して許可が出る仕組みだ。今回もあっという間に許可が出たので徴収することができたよ。



『アキ!賠償請求したGPを換金してアキのスマホに振り込んだぞ』


「ありがとう、レオ。これでおっちゃんも安心だね!」


『でも···、いいのか?全部巻き上げなくて。慰謝料も取れるのに···』


「帰るGPまで巻き上げたら死に物狂いで襲いかかられるからね。これで十分でしょ」


『アキは甘いなぁ〜。まぁ、次も来たら返り討ちにしてやろうぜ!』


「うん、そうだね!」



 こうしてボクたちはチェックアウト時間ギリギリでアウトした。あの3人組は放置して出発するよ〜!



 ボクが出発してから2時間後···。



「う、う〜〜ん···。あれ···?ここは···?」


「あれ···?勝負は···、どうなったっすか?」


「頭痛いわ···。って、なんで縛られてるのかしら?」


「おう、お前ら。お前らが払うはずだった飲食代はあの嬢ちゃん・・・・が払ったぞ」


「···え?オレっちたちは払わなくていいって事っすか!?」


「あの嬢ちゃんは立替払い・・・・って言ってたな」


「立替···?もしや!?」


「えっ!?GPが減ってるわ!?『賠償請求』ですって!?」


「やられた···。って!?ワシらの世界に帰る分しか残っておらんぞ!?」


「鬼っすね···」


「どうして!?どうしてこんな事になったのよ!?」


「それはお前らがあの嬢ちゃんに勝負挑んだからだろ?ほら!さっさと出ていけ!営業の邪魔だ!!」


「くそっ!これで勝ったと思うなよ!!」


「オレに言うセリフじゃねえだろ···。あの嬢ちゃんの前で言いな」



 こうして酒場のおっちゃんに追い出された3人組はヘンなおじさんにカツアゲされ、ボクにGPを奪われ、着の身着のままでさまようことになるのでした。これに懲りてボクに関わって欲しくないなぁ〜。




 ハァハァ···。ムフフ!フーたんに手を出そうとするから痛い目にあうのだよ。···でも、それならボクチンもフーたんに痛い目にあわせてもらいたいなぁ〜!いつもは店内だから言葉でののしってもらうけど、ここなら物理的に痛みを伴うのも問題なさそうだな!?


 ハァハァ···、いかん!考えただけで興奮してしまうぞ!?もうガマンにも限界が···。ハァハァ···。

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