小さな魔法



その日の夜、リュウは自宅でSNSの投稿を準備していた。普段なら戦場での戦術を練る時間だったが、今はスマホの画面を睨みながら、見慣れない操作に苦戦している。「これが現代の“魔法の伝書鳩”か…皆がどうやってこれで情報を得ているのか、不思議でならんが…」と呟きつつも、リュウはその奥深さに興味が湧いてきていた。


ふと画面に映るSNSの人気投稿を目にしたリュウは、そこに書かれた「いいね」や「コメント」が人々の反応であることを理解し、少しワクワクした気持ちになった。異世界の戦場では、リュウの指揮が仲間たちの士気を高めるものだったが、今度は「いいね」がその役割を果たすのだと気付き、ますますSNSに熱中していった。


投稿の文面を考えながら、リュウは頭をひねった。「日常に小さな魔法を…」というコンセプトをどう言葉にすれば、今の人々に伝わるだろうか。ふと、彼の頭に浮かんだのは昔、異世界で語り継がれていた物語や、村人たちが互いに助け合って生きていた時代の情景だった。


「人が互いを思い合い、ちょっとした出来事にも感動し、日々に感謝する…。それが魔法のようなものだ」


そう呟くと、リュウは素朴な言葉で初めての投稿文を打ち込み始めた。


「日々の中に小さな奇跡がある。それに気づけたとき、僕たちの世界はもっと輝く。あなたの毎日にも、魔法のような瞬間がありますように」


投稿ボタンを押し、画面に自分の言葉が表示されるのを見つめるリュウ。最初の一歩に満足感を感じていたが、果たしてこの言葉がどのように受け止められるのか、内心では少し不安もあった。


翌朝、会社に着くと、佐藤がリュウに駆け寄ってきた。「リュウ君、見たかい?昨日の投稿、反響がすごいんだ!『いいね』が一晩で何百件もついてる!」


リュウは思わず目を丸くした。「何百…?そんなに多くの人が僕の言葉を…?」


「そうさ!しかもコメント欄も大賑わいで、『心が温まった』『日常に感謝する気持ちを思い出した』って、たくさんの人が感動してるんだよ!」


リュウは信じられない気持ちでスマホを手に取り、自分の投稿に寄せられたコメントを読み始めた。人々が彼の言葉に共感し、自分の体験を語り合っている様子に、リュウの胸は熱くなった。


「まるで、みんなが僕の仲間になったようだな…」とリュウが呟くと、佐藤が満足そうに笑った。「そうだよ、リュウ君。これが現代の『人の心をつかむ戦略』なんだ。君はすごい才能を持ってるよ!」


その言葉にリュウは照れくさそうに笑い、肩をすくめた。「いやいや、僕はただ、異世界で感じてきたことを話しただけだ…」


こうしてリュウは、異世界での経験をもとに人々の心を動かし始めた。彼の素朴で温かいメッセージは、まるで日常に魔法をもたらすように、少しずつ多くの人々の生活に光を灯していった。


その後もリュウは様々な投稿を行い、現代のビジネスと異世界の知恵が融合した独自のスタイルで、ブランドのイメージを築き上げていった。そして彼の挑戦は、いつしか人々から「魔法使い」と称されるほどにまで広がっていくのだった。

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元勇者、ブラック企業に勤める @ikkyu33

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