元勇者、ブラック企業に勤める

未来に向けた挑戦

リュウが新しいプロジェクトのために会議室に入ると、彼を待っていたのは広報部やマーケティング部の社員たちだった。プロジェクトは、ブランドのイメージを一新し、若者から大人まで幅広い層に「現代的なブランド」として認知させるというものだ。リュウにとって「現代的なブランド」とは、いまひとつピンと来ない概念だったが、何よりもその一大プロジェクトのリーダーに任命されたことに内心興奮していた。

佐藤が会議を開始すると、スライドには「未来に向けた挑戦」というテーマが映し出され、社員たちが次々と意見を出し合った。しかし、リュウの頭の中には、これまで戦場での戦略や戦術に基づいた考えが浮かび、何とかその発想を現代風にアレンジしようと必死だった。

「ふむ、未来に向けた挑戦か。つまり、次なる戦場の攻略法を考えねばならんわけだな」と、リュウが小さく呟くと、隣に座っていた若手社員の高橋がニヤリと笑った。

「リュウさん、戦場というより、今回はお客様の心を掴むってことですよ。いかにブランドが彼らの生活に欠かせない存在だと感じてもらえるかが大事なんです」

リュウは高橋の説明を聞き、頷きながら考えを巡らせた。戦場ではなく、心を掴む戦略。それはまさに「心の要塞」を攻略するようなものだと直感的に理解したリュウは、少しずつ新たなアイディアが浮かび始めた。

「ならば、顧客の『信頼』を築くことが肝要であろう。信頼とは、一度結ばれればどんな嵐にも揺るがぬものだ」とリュウは提案し、会議の場でその意見が注目を集めた。佐藤も「確かに、その信頼が我々の強力な武器になるな」と感心し、社員たちはリュウの意見に感心していた。

さらに、リュウはブランドの新しいキャッチコピーとして「日常に小さな魔法を」というアイディアを出した。異世界での経験を基に、リュウは日常の中に「奇跡」や「感動」を与える存在が重要だと考えたのだ。これには社員たちも深く共感し、次のプレゼンテーションでも使うことが決まった。

こうして、リュウの異世界ならではの発想が、現代のビジネスに少しずつ新しい風を吹き込み始めた。そして、リュウ自身も気づかないうちに、少しずつ「現代的な」感覚を身に着けていった。

プロジェクトの準備が進む中、ある日、リュウがふと休憩室でスマホを手に取ると、佐藤が声をかけた。「リュウ君、そろそろSNSでブランドの宣伝をする準備もしておこうと思うんだが、どうだい？いけそうか？」

リュウはスマホを見つめながら考えた。異世界には存在しない「SNS」という戦略ツールがどのように人々の心に影響を与えるのかはまだ完全に理解していなかったが、やる気だけは十分だった。「よし、SNSでも人々の心をつかむ作戦を練らねばならんのだな！」

その後、リュウは佐藤と共にSNS戦略を練り、ブランドの新しいコンセプトを伝えるための投稿内容を考え始めた。彼の「日常に小さな魔法を」というコンセプトが、どのように人々に受け入れられるのか、リュウはまた一つの挑戦を胸に秘めていた。