ブックタワーを攻略せよ!

長月瓦礫

ブックタワーを攻略せよ!


それは、どこまでも高い塔だ。

本が何冊も積み上がって、頂上が見えない。

落ちる瞬間、確かにそこにいた。


積み上げられた本の上で、こちらを見ていた。

そこにいたのに、叫んでも届かなかった。


そのまま落ちて、地面に叩きつけられた。

目の前に本が積み重なっている。


上にいるのは分かっているから、あとは登るだけだ。

わずかに飛び出ているページをたぐって、上っていく。


絵本、小説、教科書……これまで読んできたと思われる本が重なっている。


小説の趣味が合わないのは薄々気づいてたけど、ここまでひどいか。

ライトノベルと歴史小説、そりゃ話だって噛み合わねえわけだ。


異世界ファンタジーが異世界じゃないし、ファンタジーしていないと文句を言っていた。バケモノ退治の専門家から見たら、違和感しかないらしい。


完全に職業病だ。

専門家気取りもいい加減にしてくれ。


しおりを掴んで、手繰り寄せる。

まあ、お互いに好きなだけ話して終わるだけだから、気楽ではあった。


口は荒いけど綺麗にご飯を食べるし、不良だのなんだのと呼ばれているけど、そこまで悪い奴じゃなかったし。


親友になれたのが奇跡みたいなもんだから、それはそれで別にいいんだけど。


じゃあ、何で俺を助けなかったんだ。

絶対にこっちを見ていたはずなのに。


「……」


多分アレ、助けられなかったんじゃねえかな。

何らかの理由であそこから動けない。

何らかの理由って? 知るかボケ。


「メンドクセえなあ、あの野郎!」


マジで何考えてるんだ。

自分から降りて来いっての……。


動けないなら動けないなりの理由を教えてくれ。

今も何も分からないんだから。


積み上げられた本をひたすら上る。分厚くなってきて、難しい本が増えている。

ただ、使っている感じがしない。ほとんど読んでねえんじゃねえの、これ。

参考書、ビジネス書……嫌いそうな本ばっかりだ。


「おい、何やってんだ」


本を登りきった先に待っていた。

意外そうに俺を見て、目をそらす。


「べつに」


「まあ、確かにお前っぽいけどさ。

マジ面倒くさいし、無駄に遠いし、やたら長いし、面倒くさいし!」


「知ってるよ、自分でも分かってる」


ずっと暗い目をしている。黒々と渦巻いている。

家に帰りたくないからって異界に引きこもるかよ。


引きこもったバカが目の前にいるし、登ったバカもいるんだよ。


「ほら、帰るよ」


握った手はわずかに震えている。一番下の本が見えない。

今までの努力が吹き飛ぶわけだ。


「先に行けって言われても行かないからな」


「怖くないんだ」


「諦めた」


「そっか」


「けど、一緒なら大丈夫ってことが分かった。俺は何度でも飛び降りるよ」


「今は何回目?」


「何回目だと思う?」


少し笑うと、目がばちっと合う。


「知らなくていいか」


「だろ?」


ようやく手を強く握り返してくれた。

隣に立っているのを見て、足元を見ずに飛び降りた。




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