モニカとおともだち、なかよくできるかな? ~幼女は今日も元気です! 大人の世界はマジでワチャワチャも幼女は溺愛されて暴走もかわいく、結果的にみんなが幸せになる件について~

オープニング 王城の庭

OP-1 モニカとおてがみ

 とある王国の、すえの姫さま。


「モニカでつ! 5なのでつ! むふん!!」


 ごあいさつ、よくできました。

 ドヤ顔がまたかわいらしい。

 舌足したたらずさえもあいらしい。

 みなを笑顔にする、ちっちゃな姫さまである。


 モニカはまだ国民へお披露目ひろめをしていない。

 ちょうよ花よと、王城おうじょうで大切に守られているのである。

 王城のにわは安全である。やんちゃなモニカにはせまいくらいなのだが、おひさまぽかぽかな日和ひよりにはお庭に出るのが日課にっかである。


「ケルス! ケルス! ここがいいのでつ!」


 お気に入りの木陰こかげにトコトコやってきてぺたりと座れば、モニカはぺちぺちととなりを叩く。

 おともはわんこのケルスである。お利口りこうにも、モニカが指定したところにどっかりと大きな体を横たえた。

 ケルスはモニカを乗せられるくらい大きなわんこである。白い長毛ちょうもうに隠された目、れた耳。雪山のようなどっしりとした体とは逆に、性格は優しくおっとりしているようだ。モニカに背もたれ代わりにされても、文句の一つもいわないのである。


 風が心地よく、モニカの、ケルスの、ほほをなでる。

 さやさやと木の葉が揺れてハーモニーをかなでる。

 モニカのき通るようなプラチナブロンドの巻き毛に、木漏こもれ日が差してキラキラ光る。いずれは家族と同じストロベリーブロンドとなるのだろうが、今はまだその髪は細く、赤毛もほんのわずか。おぐしはメイドたちにお手入れされて、いつもつやつやピカピカである。


「あ、うさたん!」


 ぴょこんと出てきたうさぎに、モニカはすぐ顔を輝かせた。


 バネ仕掛けのように飛び出し、駆けて。


「にゃあぁっ!」


 ころんだ。


 泣かない。

 強い子である。


「キャハハハッ!」


 泣くよりも大きく笑えば、うさぎはびっくりして逃げていってしまった。


「うさたん? どこいきまちた?」


 キョロキョロうろうろのモニカに仕方ないなあとばかりにのっそりケルスがやってきた。


「ケルス! ケルスッ! うさたん、いまちた! かくれんぼしまちた!」


 おひさまに負けない元気良さで、また駆けていく。

 ケルスのため息が聞こえてきそうである。


 いつもやんちゃに駆け回るから、きれいなドレスも、整えられたかみも、すぐに汚してしまうのである。お姫さまなのに、モニカはおかまいなし。モニカが愛されるゆえんではあるが、優しく、あたたかく、みなでアイドルモニカを見守っているのである。


「キャハハハッ!」


 転んでも、汚れても、いつでも花咲くような笑顔である。


 ひとしきり駆けて満足したら、また木陰に戻ってきた。

 

 放り出されていた何かをケルスが鼻先でつつく。


「そうでちた! きょうはをよむのでちた!」


 ケルスをふかふかのソファー代わりにして、モニカは絵本を手に取った。


 モニカのそばに小鳥たちが舞いおりる。


「ことりたん? いっしょにえほんよみまちょう!」


 モニカの声に小鳥は首をかしげた。

 モニカも真似まねして小首こくびをかしげた。


「キャハハハ」


 モニカがはじけるように笑うと、小鳥たちはさえずりでおうじる。


 王国は今日も平和である。


「くまのぉルゥたん。も、もりのおともだちとぉハチミチゅ」


 モニカはまるで小鳥たちに自慢じまんするように絵本のタイトルを読みあげた。

 今日はモニカが大好きな「くまのルゥたん」シリーズの、その最新刊が出たのであった。ワクワクがおさえられないモニカは、体ごとするようにして次の展開が待ち切れないとばかりにページをめくるのである。


「ルゥたんはぁ、もりで、ハチミチゅを、みつけ、まちた。

 おーい、みんな、ハチミチゅがあるよ!

 ルゥたんはぁ、ひとりじめにせずぅ、おともだちをよぶの、でつぅ」


 熱心に絵本の世界に入り込むモニカ。

 ケルスはモニカのたどたどしい朗読ろうどうく子守唄こもりうた代わりにうたた寝である。


 風がそよいだ。


 ケルスのはながぴくりと動いた。

 耳も立つ。

 小鳥たちはさえずりをやめた。

 ざわめきのような不穏ふおんな気配は、空からだ。

 モニカは気づいていない。


「あぶないよ!

 はちたんたちに、おこられるよ! ……」


 モニカの朗読を大きな羽音はおとがさえぎった。


「うにゃ?」


 モニカが顔を上げると、昼間の明るさには不釣り合いな真っ黒の鳥が一羽。

 ツバメほどの大きさだが、小鳥たちは恐怖きょうふを感じたのか飛びさってしまった。


「とりたん! とりたん!」


 モニカには警戒心けいかいしんなく、無邪気むじゃきなものである。

 遊びにきたお友だちをむかえるように、眼光がんこうするど黒鳥こくちょうに手を伸ばすのである。

 小鳥たちは遠巻とおまきに見ている。

 ケルスはシェードのように垂れ下がる毛の奥で目を光らせていた。


「なんでつか?」


 黒い鳥は妙なことを始めた。地面に降り立つと、自分の足にわえつけられていたものを器用きようにくちばしでほどくのである。さらにそれをモニカのもとへ。まるで召使めしつかいが姫さまに献上けんじょうするように。


「なんでつ? なんでつか?」


 モニカはこてんと首をかしげて黒い鳥に問いかけるも、鳥はこたえず飛び立ってしまった。


「ばいばい!」


 元気に手を振り、鳥を見送るモニカは知らない。

 たくされたその手紙が王国に激震げきしんあたえるのを。

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