第7話 相対す狂気達
学校が終わった瞬間ダッシュで家に帰り動きやすい格好に着替えて学校にとんぼ返りする。
...ちょうど間に合ったみたいだな。樹と天上さんが校門から出てくるところだった。
周りを確認してみるが怪しいやつは...いるな。あの、脂ぎった子供部屋おじさんみたいなやつだな。
あの下種、ストーキングするつもりあんのか?
いや、俺は一度あの狂喜を見ているから分かるだけで普通のやつじゃ分からないもんか。
しばらく尾行したが、動き出すならそろそろだろう。人通りが少ないからな。
念のため、撮影も始めるか。
俺としては、変な気を起こさないで欲しいものだがどうなるやら。
「チッ...」
ポケットから折り畳みナイフを取り出し始めた。
だが、まだだ。
ストーカーは不意打ちなんてしないはずだ。例えしたとしてもすぐに制圧できる距離にいるから大丈夫だ。
「朱莉ちゃん!僕がいるのになんで他の男と一緒にいるんだよ!?」
やっぱりな。俺の時も不意打ち気味だったけど一応、声はかけられたからな。それに、あの手の厄介ガチ恋過激派オタクみたいなやつならなおさらだ。
そう思いつつも、樹と下種が言い争っている。
「あのバカ!逃げろって言っただろッ!!」
相手が獲物を持っていたら、まず素手で勝てないから即座に天上さんを無理矢理引っ張てでも逃げろって言ったのに!
物陰から一気に加速し飛び出す。
「疾ッ!」
樹と天上さんが俺に気付く。
「響ッ!?」
遅れて下種野郎も気付くが、もう遅い。
後ろから、右腿に下段蹴りを放ち膝をつかせる。その隙に、樹達と下種野郎の間に入り樹達を庇うようにして立つ。
「おい、樹。言ったはずだぞ。出会ったら、すぐに逃げろと」
そう言いながら、撮影しているスマホを投げ渡して「撮影していてくれ」と言う。
「お前も、朱莉ちゃんに近づく悪い男だろ!僕が倒してやる!待っててね、朱莉ちゃん!!」
急速に頭が冷えていくのが分かる。
「お前もそうか。やっぱ...お前らのような人間...いや、己の欲望でしか動かない獣でいながら人に害をなす奴らなんざ害獣で十分だな...」
静かに神経を研ぎ澄ましていく。
「とっとと来い。駆除してやる」
そう言い放ち、構えを取って殺気を放つ。
「うっ...うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺の殺気に当てられ半狂乱状態になる豚。
大振りのナイフによる一撃が振り下ろされる前に距離を詰め左腕で防ぎながら、その醜く太った腹に右足による前蹴りを突き刺す。
「こひゅ...」
体がくの字に折れ曲がる。顔面が蹴りやすい位置に来たので、右足を引き戻し左足を軸に回転し、後ろ回し蹴りを右側頭部に叩き込む。
蹴りをもろに受け、巨体が右に吹き飛びブロック塀に衝突する。
「死ね」
そして、顔面に全力の前蹴りを放とうとする。
「響ッ!やめろッ!!」
樹の声で正気に戻り、ぎりぎりで蹴りの軌道をずらし顔面を避けるが後ろの壁に当たる。
しかし、その蹴りの威力でブロック塀には小さいが罅が入る。これが当たってたら確実に殺していたな。
大きく息を一度吐き。
「樹、すまん。助かった」
樹達の方を見ると、樹の表情は引き攣り、天上さんは...俺を恐れているのか?よく分からん。
ハッとした樹が聞いてくる。
「響は大丈夫か?」
「あぁ、俺は一切問題ない。証拠映像は撮れたか?」
頷く樹。
「よし、じゃあ警察に連絡して事情説明だな。樹と天上さんは親に連絡した方がいいぞ。こういう時は帰れるようになるまで時間かかるらしいからな」
そう、促すも反応の無い天上さん。それに気付いた樹が顔の前で手を振ると、彼女は言葉を発する。
「かっ」
「「かっ?」」
「カッコイイぃぃぃぃ!!」
天上さんは、興奮したように大きな声を出す。
それに面食らっていると、天上さんが目をキラキラさせながら近付いて来て、俺の手を掴んでくる。
「スゴいっ!スゴいっ!!バシッと受け止めて、ドカンって蹴って、今度はクルンって回った思ったら、人が飛んで行ったよっ!!」
思いがけない反応に驚いていると、天上さんは色々な事を聞いてくる。
「ねぇねぇ!響君は何か習ってるの?」
それに戸惑いつつ答えていく。
「地元にいた時に空手を習っていた」
「空手で地元って沖縄出身なの?」
「あぁ、母親が沖縄生まれでな。中学までは沖縄にいたよ」
「えぇっ!いいなぁ!!朱莉も沖縄に住んでみたい!」
「でもなぁ、沖縄の冬とかは意外と大変だぞ。風速10m/sが、当たり前で髪とかぐちゃぐちゃになるし、12月でも気温30℃近くなる日とかあるぞ」
「うーん、風が強いのも暑いのが続くのも嫌かも...」
「だろ?まぁ、それ以外は最高なんだけどね。花粉症とかも沖縄なら関係ないし」
「う〜ん、実際に行ってみないと分かんないや」
「まぁな〜。でも確か、2年の修学旅行は沖縄だろ?その時は案内するぞ?」
「いいの!やった〜!!」
なんか、毒気が抜かれたな...
天上さんと話すの思ったより楽しいな。小さな体で目一杯感情を表現するのが庇護欲をくすぐってくる。
和んでいると、樹が警察に連絡していたみたいでパトカーがやって来た。
でまぁ、そっから俺だけがめちゃんこ長かった。
まぁ、一番暴れたしな...
事情聴取のため警察署まで移動し、各々の家族や学校に連絡し、撮影した動画を見せた。
相手が、刃物を所持して襲いかかってきたので、俺の正当防衛も認められた。もし、あの時トドメを刺していたら、今度は俺が殺人でやばかったらしい。
それに、警察の人に犯人を煽ったのを怒られたが、2年前のあの事件の話をして、怒りが沸いたと言ったら納得はしたが、「怒る気持ちもわかるが、次、このような事があっても煽るようなことはしないでくれよ」とお願いされた。
そんなこんなで、警察の人と「あの、回し蹴りは惚れ惚れした」だの、沖縄で体験した怪談話等の世間話に興じていた。
すると、慌てふためいた両親と大泣きした姉ちゃんがやって来て、父さんからは怒らたり、母さんからは抱きしめられたり、姉ちゃんを宥めたりするのに1時間弱もかかった。
それに、沖縄にいる祖父母も心配しているということで一度母方の実家がある沖縄に行き、顔を見せることになった。
まぁ、あの事件で死にかけて、またストーカー事件に関わったとなればそうもなるだろう。
本当に心配をかけてしまって申し訳ない。
ちなみにだが、地元を離れた理由は、姉ちゃんがズボラで誰かが面倒見ないといけないってなった時に、親父が東京に転勤ってなったから高校からはこっちに来た訳だ。
俺は姉ちゃんが住んでるマンションに住んで、両親は近くのアパートに住んでいる。住み分けてるのは姉ちゃんの配信やらをやる時を考慮してだ。
そして、両親に姉ちゃんと暮らしているマンションに送ってもらい、部屋に戻りスマホを見るとと姉ちゃんの所属事務所の『こねくと』のあの事件のことを知っているタレントさん達から連絡がめっちゃ来ていたので、一人一人返信したり電話したりして「無事だと」伝えた。
その後も、結局姉ちゃんは俺から離れることはなく、一緒に寝ることになった。
「響、ホントに心配したんだよ」
「ごめん」
そう言って、布団の中で抱きしめられる。姉ちゃんの体温を感じると緊張の糸が切れたのか、ストーカーと対峙した恐怖とトラウマが蘇ってきた。
思わず姉ちゃんを抱きしめる腕に力が入る。
「大丈夫。私がずっと一緒にいるから」
その言葉でスっと楽になった。なので、「大丈夫だよ」という意味も込めて軽口で返す。
「そんなんだから、姉ちゃんには浮いた話の一つもないんだよ」
すると、思いっきり抱きしめられ、腰に脚を回してきてから、大丈夫なのが伝わったのか俺の顔を見ながら満面の笑みを浮かべて
「響が生きてそばにいてくれるだけで、私は満足しているから彼氏なんていらない」
なんて本気で言ってくるので、「嬉しいけど、いき過ぎたブラコンは少し怖いな」なんて思いつつ眠りに落ちた。
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