第7話 若きマリアンネ

「わたしのお父さんは、ドイツ人なんだ。生まれたのは東京だけど、私が6歳の頃に、お母さんが病気で亡くなって。お父さんの故郷のベルリンに移住したんだ。」


「…その茶髪、地毛なの?」


「うん。この青い目も、別にカラーコンタクトを入れてる訳じゃないよ。」


「そう…。」


「…話を戻すね。それで、わたしのお父さんは探偵だったんだ。探し物から人探しまで色んな依頼を受けてたんだけど…、去年の夏、全ての元凶になった依頼があった。」


「…。」


「行方が分からない、ユダヤ人の夫を探して欲しいって依頼。事件性も無くて、警察が動いてくれないからお父さんに依頼して来たんだと思う。」


「…お父さんは、頭が切れる探偵だった。だから、調査を進める中で、気付いてしまった。」


「…何に。」


「その失踪事件には、魔術結社が関わってたんだ。」


「魔術結社…?」


「うん。日本では余り馴染みが無いと思うけど、ヨーロッパには大小様々の魔術結社があるんだ。その目的は様々だけど、中には国家転覆を目論むテロ組織の様なものも混じってる。」


「…。」


「関わっていたのは、"新たなる十字"ノイアークロイツって言う魔術結社。ネオナチ系の結社で、ユダヤ人狩りもしてたみたい。」


「それで、黒幕に気付いたお父さんは、どうなったの。」


「お父さんは何とか証拠を掴んで、この問題を法廷に持ち込もうとしてた。でも_」



2024年10月26日夕方 ドイツ・ベルリン

「お父さん?どうしたの、電話なんて珍しいね。」


「今すぐ金とパスポートを持ってその家から逃げろ!!涼音の身も危ない!」


「え、それってどう言う…」


「惜別は済んだか?」


「え_」


「召喚獣 "世界蛇"ヨルムンガンド


「お父さん!?」





「そこで電話は途切れた。奴らはお父さんが嗅ぎ回っている事に気付いて、逆にお父さんの事を調べ上げてたんだ。」


「……殺されたんだね。」


「うん…。わたしはすぐに家から逃げて、暫くはホテルを転々としようかとも思った。でも、ドイツ国内には逃げ場が無かった。」


「その魔術結社は、そんなに大きい組織なの。」


「うん。中東からの難民問題の影響もあって、白人至上主義を掲げる結社はここ数年で巨大化してる。若い世代の優秀な魔術師を、どんどん取り込んでしまうんだ。」


「それで、日本に逃げて来たんだ。」


「そうなんだけど…、甘かった。まさか、ここまで追手が来るなんて…。」


「…、涼音は、これからどうしたいの。」


「わたしは____殺したい。お父さんを殺したあの男を、わたしは絶対に許さない。」


「……………、相手、分かってるんだ。」


「あの魔法を扱える魔術師なんて1人しか居ない。」


「ヴァルター・フォン・ファルケンハイン。"新たなる十字"ノイアークロイツの創設者にして、ドイツ陸軍の中将階級にある男。」

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