神田さんの友達は偶然私の友達

こんなに大きなイオンがあるなんて


さすが大都会東京


お母さんと麻衣ちゃんに自慢したい




「カメラカメラ~」

「うわ、画像綺麗だね」

「新品って落としそう」

「帰ったらスマホケースネットで見てみようね」


画面の中にずらっと並んだお店と、この吹き抜け空間をおさめる。


「あ、神田さん一緒に撮ろう?」

「いいよ」

インカメラにして手を伸ばすと、神田さんは間を詰めてぴったりくっついた。

「今日は寝起き記念日でイオン記念日だ」

寝起き記念日って何?

「スーたんこれラインして」

「はい」


iPhoneは入荷待ちだったから、すぐにもらえる機種にした。

使ったことなかったAndroid。

すごい新鮮。


「俺もそれに変えようかな、いいな」

「え、最新iPhoneなのに?」

「2台持ちみたいな?」

「それカッコいい!」


私では契約が出来なかった。

そりゃそうだ。

身分証もなければカードもない。

だから神田さんが契約したから、事実的にはこれは神田さんの2台目。


当たり前のように神田さんは契約してくれた。

最初からそのつもりだったみたいに。


「さ、端から端まで見ようか」

「はい!」


沢山ある洋服屋さん。

私より楽しそうな神田さん。

「スーたんこれ可愛い」

「神田さんってやっぱ山っぽいの好きですね」

「え、嫌い?」

「ううん、元々カジュアルが好きなの。

 ヒラヒラしたのは美来くんが好きで…」

「んじゃこれにしよ~

 俺の好みにしちゃお~

 スーたん何色がいい?白?」

「んーー…ベージュ!」

「じゃあベージュ買ってくるね」


悪いなって

申し訳ないなって


思わないことにした。


神田さんは謝ると嫌そう。


昔、光輝にも言われたことがあった。

遠慮しないで欲しいって。


「お待たせ~袋可愛かったよ」

「ありがとうございます」

「いちいち言わなくてよし」


美来くんは謝らないと嫌がったし、いちいちありがとうを求めた。

片付けといたよ、ありがとう

スズの使ったコップ洗ったよ、ありがとう

窓の鍵しめたよ、ありがとうって

私は美来くんの50倍それやってるって、反抗心が出来たのは神田さんと誕生日を過ごした後からだった。

たぶん現実が見えたんだと思う。



「あ、神田さんリュック欲しい

 大学に持って行くやつ」

「リュック?うん、見に行こうか」


神田さんは言いやすい空気を作ってくれる。


甘えたいなって思っちゃう


手を繋ぎたいと思ったのも、甘えたいからなのかな。



「やべ~…俺も欲しい」

「神田さんリュック使うんですか?」

「ハイキングとか?」

「あぁ、ピクニック?」

「いやハイキング」

「だからピクニックでしょ?」

「今度の休みはハイキングだな」

「ピクニックね」

「や、真夏に無理だ

 今度の休みはプールにしよう」

「プール!行きた~い!」

「よし!リュック買ったら次は水着だ!」



本当に一日中。

Tシャツにブラウスにワンピース

水着にリュックにスニーカー

パジャマも下着も靴下も

嫌な顔せず、ずっと楽しそうに笑ってくれた。


「あとは~肉肉~」

「バーベキュー!」

食品売り場でカートを取ってかごを乗せ

人の波に乗って、野菜売り場に入って行った。

「ピーマンと…あ、トウモロコシ」

「トウモロコシ大好き!」

「オクラ」

「どうでもいい~」

「カボチャ」

「好き~」

「嗜好が子供だな」

「子供じゃない~」

豆腐や納豆を入れ、白菜の漬け物もいれる。

「あ、味噌少なかったな」

「神田さん、チョコ食べたい」

「取ってくる?

 いくつかお菓子持っておいで」

「100円まで?」

プププ

お母さんみたい。

「え、今なに笑った?」

「何でもないです」

「お母さんみたいって思っただろ!」

「思ってない~!」

アハハハ

「スーたん俺の分もお菓子お願いね」

「はい!」



東京に来てから、本当に今日が一番楽しいかもしれない。


美来くんといて楽しい日もあったと思うけど

だけど全然違う



こんなに笑ってなかったと思う。



神田さんってすごいな。





車の後ろの座席には、荷物が一杯になった。


「スーたん寝てていいよ」

神田さんは何度もそう言った。

だけど楽しかったから全然眠くなかった。




「んーーー…!疲れた!」

駐車場で車を降りると、神田さんは大きく伸びた。

「あとで肩揉んであげます」

「マジで~強めでお願い」

「はい!」

二人とも両手にいっぱい荷物をかかえて、さすがにエレベーターで上がった。

一日中ショッピングして運転して、絶対疲れたと思うのに

「さてさて~キャンプキャンプ~」

神田さんは昨日のマシーンを持ってベランダに出て行った。

「スーたん休憩してて」

戻ってきたと思ったら椅子を運び、パラソルを運び、なんか組み立て始めたり。


みるみるうちにベランダが


「すごーーい!キャンプだ!」


「スーたんどうぞ!」

「これハンモック?!」


たぶん、人を楽しませる天才なんだと思う。


「キャーーー」

「いいだろこれ~」

ユサユサユサユサ

「いい!」


ベランダで遊んでいたら


「あ、神田さんチャイム鳴ってない?」

「そうだった、来るんだった」


インターホンの音が聞こえ、神田さんが家の中に入っていった。

お友達になんて挨拶したらいいかな。

居候の青井鈴です、でいいかな。

「よっこらしょ」

楽しいけど、脱出するの難しい。

なんとか網をかいくぐり私も家の中へ。


「お邪魔しま~す」

「高価そうなワインをありがとう」

「醤油ですよ」

「いらんわ!」

なんか楽しそうに玄関から入ってきた声。


誰だっけ、聞いたことある気がするようなないような。


フッと、頭の中が急速巻き戻しスイッチを押した。



「あ、スーたん脱出できた?」アハハ


「お邪魔してすみま…」



ピタッと停止ボタン



「「うそ…」」



「天城ちゃん?!」「スズっこ?!」



また会えるなんて…



「天城ちゃんだ!」



感動しすぎて思わず抱きついてしまった。



だけど天城ちゃんは笑って抱きしめてくれた。




「なんでお前がこんなとこにいるんだよ~」


「天城ちゃんこそ~」


アハハハハハ~ウフフフフ〜



「え、二人知り合…」


聞きかけた神田さんが言葉に詰まる。


「まえ…光輝と付き合ってたときに」

「そ…そそそそそっか」

「神田さん、動揺しすぎですよ」ボソッ


「天城ちゃんも東京にいたんだ」

「まぁね~朝霧さんがアル…」

「あーーー!」

「なんですか急に大声だして!」

「ア…アル…アルパカ好きだったなあいつ~」

ハハハハハハ

え、そうなの?知らなかった。

「さ、スーたんはベランダにお皿持ってって」

「はい」

「天城くんはちょっとこっち手伝ってもらおっか」


そっか~

神田さんは天城ちゃんと仲良かったんだ。

また会えるなんて嬉しい。


てか何話してるんだろう


外のテーブルにお皿や箸を並べ、中を見ると、二人はキッチンで話しながら肉のラップを外していた。


んーー…確かに微妙なのかな。

職場の人の元彼女が居候してる状況。



「じゃあ火入れます」

「お願いします!」

「お前はホント変わってないな」

「変わってます

 ちゃんと大人になってます」


神田さん一押しのバーベキューマシーンを囲んで、横のテーブルにはお肉のパックや切ったお野菜。

そしてお酒。


「スーたんもお酒飲めるもんな~」

「そうですよ!」

「スーたんのは今日はこれ!」

「トマトジュース?」

「そ、ビールと混ぜたら飲みやすくなるよ」

「美味しそうかも~」


「ではまぁ、詳細は色々置いといて」


「「「かんぱーーい」」」


ゴクゴクゴク


「赤いビール美味しい!」


なんだか楽しいことになってきた。


「ホントに煙り出ませんね」

「このくらいなら全然いいな」

「トウモロコシ美味しい!」


そこそこお腹が満たされ、ランタンの明かりがいい感じになり、ビールがいつの間にかワインに変わった頃


「じゃあそろそろ聞いていいですか?

 なんでこの小娘がここにいるのか」


天城ちゃんがそう切り出した。


神田さんからは話しにくいかもしれない。


「あのね、私大学に入ってから彼氏が出来たの」

美来くんの話。

「いつも一人でさ」

友達が出来ない話。

「でも、おかしいなって思って」

天城ちゃんは何か突っ込むこともなく、飲みながらただ聞いていた。

そして一言


「神田さん、グッジョブ」

「まぁな」


「苦労しますな、スズっこちゃん

 あんなハッピーガール丸出しだったのに」

「うん…でも今はウソみたいに幸せ!

 昨日からなんかすっごい楽しいし〜」

「前向きだねお前は」

「ん?神田さんどうかしました?」

「あ、お前の台詞に感動してる」

「なんで?」


「てか、スズっこマジ飲むね」

「トマトジュースと混ぜたら美味しい

 ノーマルは美味しくないけど」


友達が増えて嬉しいな

だからお酒も進むのかな

↑チビッとしかビール入れられてない


「天城ちゃん、お買い物に行く約束したのにね」

「さすがにほら、朝霧さんと別れたと聞いたら

 そのすき狙うみたいでどうかな~って。

 お前も朝霧関係に会いたくないだろうしって」

「うん、あの時は会いたくなかったかも」

「だろ~」


「静香さんとかシモピーさんは?元気?」


「どうなんですか、神田主任」


「うん、元気だよ

 ライン教えようか?」

「いいの」


「だって赤い糸が繋がってるならまた会えるもん。

 神田さんと会えたみたいに。

 偶然会ったらその時、自分で交換する」


「赤い糸…!」ウルウル


「俺は?」

「天城ちゃんライン交換しよう!

 今日ね神田さんにスマホ買ってもらったの」


「神田主任、交換してよろしいでしょうか?」

「どうぞ…」


新品になった私のラインにお友達が出来た。


杏奈やキノコたちのラインどうやって聞こう。

それが問題だった。



「なぁ、お前大学でぼっちが嫌なんだろ?」

「今はそうでもないけど、威張ってるから」

「俺明日休みだし、朝一緒に行ってやるよ。

 そんで学食で昼食って帰りまた待っててやる」

「え?」


「だってヒモ左衛門が心配じゃん。

 一人のとこ狙って何か言ってくるかもしれないし」


天城ちゃんがそんな提案をすると

神田さんが


「それいい!頼む!」


って、しんみり飲んでるかと思ったら食いついた。


「え、でも授業の時は?」

「青山だろ?俺家近いから帰れるし

 パソコンとか持ってけば仕事も出来るし」



こうして私は、明日はぼっちじゃなく、天城ちゃんと大学に行くことになった。

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