緊急コール
スーたんとのラインを、うはうはで楽しんでいた俺。
たとえ、目の離せない細かい数字をエクセルに打ち込んでいるときでも、取引先の取締役さんと契約書の記入をやってるときでも、プロジェクタ使用の薄暗い会議中であろうと
俺は秒でラインを返した。
ぼっちじゃないよと
スーたんにわからせたかった。
金曜日があのカラオケ。
んで土日はラインこなくて、その後の月曜日。
月曜日オンリーだった。
ラインはたった一日で終了してしまった。
「なんでや」
全然ラインが来ない。
日中、こちらからラインしても返ってこない。
夕方以降はヒモ太郎くんと一緒かもしれないからしなかったけど。
そしてまた週末がきた。
「天城~今日飲みいかね?」
「え、イカ焼いてくれるんですか?」
「渋谷のジョイジョイ居酒屋」
「え…」
「やだ?」
「なんでジョイジョイ?
株主にでもなったんですか?」
会いに行ったら迷惑だろうか。
「でも今日は荷物届くって言ってましたよね」
「そうだったーー…」
社食で注文した冷やし担々麺が喉を通らないほど、俺はスーたんで頭一杯だった。
スーたんが新しい壁を建設したのか、ヒモ太郎が要塞を築いたのか。
ヒモのタイプは2種類あると思う。
ちゃんと本気で彼女を愛しているヒモと、彼女をマネー作成機だと思っているヒモ。
甘く採点してもヒモ太郎は後者。
後者の中でもエリートだ。
俺とラインしてるのを見つかったんじゃないかと思ったけどそうじゃなく、俺の仮説ではスーたんは自らやめた。
ヒモ太郎教の熱心な信者だから、俺とラインすることは悪いことだと素直に思ったんじゃないか。
安心しきって、俺にもたれて眠るあの顔が忘れられなかった。
「神田くーん、明日のゴルフ大丈夫?
抜かりとか抜かりとか抜かりはない?」
室長は、植木にしがみつくコアラのレイアウトを変えていた。
「はい、抜かりも抜かりも
それから抜かりもないと思います」
「光芝電気の手島さんね
このために新しいセット買ったらしいよ」
「マジですか」
「僕も買いに行っちゃおうかな~」
「俺も買おうかな」
「お、行く?」
夕方、そんなノリで室長と近くのゴルフショップへ。
「うわ、室長そのポロシャツ似合いますよ」
「でも地味じゃない?」
「地味じゃないです、シックです」
結局、セットは持ってるからほかの物を見てしまう。
セットにいくらもつぎ込むほどゴルフにハマってるわけでもなく、つきあいでしないといけないから、一通り道具がそろってればいいって感じ。
「僕もポロシャツ買おうかな…
あ、室長この帽子よくないですか?」
「お!いかすね~」
「いかしますでしょ」
アハハハ
「神田くんイロチにしようか」
「イロチの意味わかってますか?」
「色違いだろ、そのくらいわかるよ」ワハハハ
室長は白、俺はネイビーを買ってもらった。
「神田くん、タピろうか」
「タピって意味わかってますか?」
「タピオカ」
映えなタピオカは俺が買って、おじいさんとおじさんは吸いながら歩いて本社に帰った。
「神田さん、福岡からメールきてます」
「はいはーい」
フレッシュ24歳出口くんに言われパソコンを開くと
「お、静香ちゃーん」
なになに?
『このクソ暑い真夏にゴルフコンペ企画した
本社エネルギー開発本部ご担当者様』
すごい、嫌みたっぷりで素敵。
『本日会食が入りましたので
明日始発の便に変更いたしました。
そうなると、到着がぎりぎり
もしくは遅れるかと思いますので
ご連絡差し上げた次第でございます』
コンペを企画したのは私ではありませんので訂正をお願いします、と。
よしオッケー。
あ、静香来るんだっけ
言う?言わない?
スキーの時仲良かったよな、スーたんと。
朝霧あってのお友達だったんかな。
明日話す暇あったら、それとなくスーたんの話題ふってみて、静香の反応次第で相談してみるか。
人間関係バッサバッサ切り捨てるタイプだからわからんしな。
.
ということでやって来ました。
「らっしゃっせ~!何名様!」
「あ、二人です」
スーたんいないのか?
「多いね、ここ流行ってんの?」
「はい、俺的に大流行です
今日はご馳走させてくださいね」
天城にふられ、一人で行こうと思いつつ、でも店柄的に一人飲みより数人でわいわいな雰囲気。
それに一瞬戸惑った時、スーたんの気持ちがよくわかった。
「牛島課長、刺身盛りどうですか?」
「いいね、あとこの春巻き食べたい」
「いいですね」
スーたんいないな
キョロキョロ
「いない?」
「はい…週末なのに」
「その何くんだっけ?彼氏」
「ヒモ太郎です」
「ヒモ太郎くんがライン見ちゃったってことは
考えられない?
まともな神経じゃないだろうからさ
ただ財布と思ってるだけならまだしも
支配欲みたいなのがあったら怖いよね」
「支配欲…?」
「だって財布を手放したくないでしょ?
だから自分だけを見るように洗脳して支配する。
それがだんだん歪んだ支配になる」
「お待たせしましました生でーす」
目の前に置かれたのに、牛島課長も俺も手を付けなかった。
いつもなら早速喜んでジョッキを合わせるとこだ。
「洗脳される前に助けてやんないと
そのために神田くんが再会したんでしょ」
「洗脳…」
「カラオケで二人で朝まで過ごしたんなら
まだ意思はありそうだけど」
ゴクゴクゴク
牛島課長はジョッキを合わせることなく飲んだ。
だから俺も飲んだ。
「何かできることあったら言ってね」
「ありがとうございます」
一杯だけ飲んで帰った。
牛島課長の話を聞いたら、のんびり連絡を待っている場合じゃないと思った。
「洗脳って…」
郵便ポストを開け、いらないチラシを置いてあるゴミ箱に捨てて
「しまった…荷物来るんだった」
わざわざ日付指定までしたのに、運送屋さんごめんなさい。
不在の連絡票のQRコードを読み込みながら階段を上がった。
三階だからエレベーターが来るのを待つより階段が早い。
「ただいま~…」
全然片付かない家の中。
まだ手つかずの段ボールもあった。
2週間以上経って開けなくて済んでるってことは、そのまま捨てても困らないんじゃないかと思うけど。
「あ、冬服か」
んじゃクローゼットじゃん
よっこらしょ
ブブブ ブブブ ブブブ
電話が鳴ってる振動が聞こえ、チラッと時計に目が行った。
0時過ぎか
絶対酔っ払った誰かだな。
クローゼットの隅に段ボールを下ろし、リビングに戻るとちょうど電話が切れた。
不在着信になった名前は
「え……」
慌てすぎる手が上手く電話をかけれない
なんでこんな時間に…!
RRRR
よしかかった!
「スーたん?!」
『神田…さん……』
弱い声が
『助けて…!』
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