遅延の代償

「キヨ!大丈夫か!?」

 ハンドルを握りながら助手席に目をやる。

 力なく頷いたキヨに背を向かせると、

上着から出したポケットナイフで両手を

縛っていた結束バンドを切った。

「これで全て終わりだ。俺らの勝ちだからよ!」 そう言って前を見据えた時ー

 フロントガラスの向こう、リムジンが

横腹を見せ急停車した!

「!?」

 ブレーキを咄嗟に踏み込む。


 リムジンから大沢と真野が降りてきた。

「てめえっ探したぞ!何やってやがんだ!?」

 後部座席からバッグと空の紙袋を手にし、

シボレーから降りた。

「待てよ!金ならここにある!!」

 バッグのジッパーを開き、中身ー

五つのレンガと、剥き出しの大量の札ーを

見せた。


 真野を従え目の前に立った大沢に

「待たせちまって悪かったな」

 バッグの中から手にした一つのレンガを

渡した。

「あと三つ、それで四千万だ」

そう言ってしゃがみ込み、地べたに置いた

バッグから紙袋に残りの三つのレンガを

入れ・・・・


  ”ゴリッ”。


 額に何かを当てられた。 上目で見ると間近に

立つ真野が薄ら笑いを浮かべこちらに腕を

差し出していた。


 ー野郎、俺に銃を向けてやがるー


「全部貰います」

 真野の隣の大沢が言った。

「全部だと?」

「遅延金ですよ」

「!お前ら・・・・」

 クソッ!クソッ!クソッ!

ふざけんじゃねぇ!! 怒りが湧いた。

 が、今はどうする事も出来ない。


「ヨシ!」

 キヨの声がした。

 大沢と真野が、声がした方に 目をやったのを

見逃さなかった。

 頭を瞬時に左に傾げ、押し付けられた銃口から 逃れつつ尻のポケットに挿していた リボルバーを抜き、一発放った。

 鳩尾に小さな血穴を開けた真野が後ろに

倒れる。 そのまま大沢に銃口を向けー


 !! 遅れた。

 大沢が既にグロックの銃口をこちらに

向けていた。

 死を感じた。とても長い時間だった。


 目の前を黒い影が覆う。 同時に轟音が響く。

 影が通過し、姿を見せた大沢に向け一発放つ。

 轟音と共に大沢が後方に弾け飛んだ。 「・・・・ざ、ざまぁみろ」

 荒い息で言った。傍らに目をやるー!!!


「キヨ!」

 背を向け、横倒れになったキヨを抱えた。

 自分の方に向かせる。

「!!!!!」

 キヨは口を開け、大きく目を見開いていた。


 ・・・・あ? 左胸から血が出ている。

・・・・嘘だろ?

「おい!起きろ!!キヨ!!!」

 必死に叫んだ。何度も名前を呼び身体を

揺さぶった。

 だがー キヨが応える事は無かった。

 項垂れた。項垂れるしか出来る事はなかった。


 その時ー エンジン音と歪な走行音を立てながら ハイエースがこちらに向け、ノロノロと

やってきた。

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