青天霹靂

 シボレーは新宿区の職安通りを走っていた。

あと数百メートルで百人町にある梶谷組の事務所に到着する。

 鼻歌を口ずさみながらハンドルを握る筧の

スマホが鳴った。

画面には『キヨ』とある。プライベートのスマホからだ。


 どうしたんだ? 筧はスマホをポケット

から出した。

「どうしたキヨ?」

 応答が無い。息を呑む音が聞こえた。

「?おい?どうした?」


ー島川潔を預かったー

「!?お前!!」

 あの若造の声だった。なぜだ!?

ー返して欲しけりゃあんたが奪ったお金を渡せー

「てめえっ!ヤケクソになりやがったか!?

てか、なんでキヨをー」


ー一時間後。太田区。菖蒲(あやめ)橋の上に

来い。 あんたたちが子供を攫った場所だー

 筧の怒声を遮り、指示だけすると若造は通話を切った。


「あの、クソがあぁぁっ!!」

 筧はスマホを持った手でハンドルを激しく

叩いた。


 どうしてだ!?どうしてキヨに!?

なにより、あの若造にこんな度胸があるとは。

せっかく手に入れた金だ。手放したくねぇ。

これは俺のモンだ。何があろうと、俺のモンだ。 梶谷に金を返さなきゃ、俺は、、、、、

すまねぇキヨ。


 筧がそう考えているとフロントガラスの

向こう、 雑居ビルの前に大沢と真野が立っているのが見えた。

 ここに向かう途中で電話を入れて

おいたからだ。


「・・・・」

 筧は2人の前でシボレーを停車させると運転席の窓を開けた。

「オヤジがお待ちです」

「・・・・」

 大沢は、返事もせず降りる気配のない

筧を見て眉を潜めた。

「どうしたよ?」

  真野も怪訝な表情で筧を睨む。


 筧は助手席に置いた紙袋を手にした。

がー

「・・・・」

「おい、さっさと降りろって」

 真野が急かす。

「・・・・少しだけ待ってくれ」

「あ?」

 

 大沢と真野が顔を見合わせた時、

シボレーが急発進した。

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