ライター
「うわっ!」
勇次はハイエースの後部座席に放り込まれた。 「ど、どうして!?」
勇次は目の前で鬼の形相を浮かべている鉄男に 恐る恐る聞いた。
「どうして?じゃねえバカ野郎が」
鉄男は歯の隙間から絞り出す様に言った。
直也が乗り込んできて勇次の胸ぐらを掴むと、 「やっと見つけたぞクソ野郎!!」
興奮した口調で持っていたスパナを振りかざし怒鳴った。
「免許証の住所に行ってもいねえし、 この家が
どうなってるかと思って探りに来てみりゃ
この有様だ」
「どうなってんだ、コラ!てめえ、まさか俺らの事チクったんじゃねえだろうな!?」
兄弟は静から動の口調のコンビネーションで
勇次を責めた。
「い、言う訳ないじゃないですか!」
勇次は首を横に振って言った。
「ニュース見たぞ?スケベりやがって」
「おとなしいツラして騙しやがったな!!」 「ち、違うんです!」
「金はどこだ?」
「そうだ、どこだ!?この野郎!」
「ありません」
「あ?てめえがやったんだろうが?」
「どういう事だよ!?」
兄弟の畳みかけるコンボに勇次はー
「き、聞いてくださいってば!!」
壊れた様に叫んだ。
ハイエースは遠藤家から数キロ離れた住宅街の 一角に停車した。
後部座席の鉄男が咥えた煙草に火を点けた。 「なるほどな。そいつらが俺らの金を横取りし
やがったのか」
勇次は、鉄男の隣で小さく頷いた。
「ったく、バスなんか使ってアブねえ橋渡り
やがってよお!」
運転席の直也が勇次に毒づき、
兄同様 咥えた煙草に火を点けた。
「まあ・・・・それでもやり切るとはな」
鉄男は勇次を見て言った。
「で、そいつらは俺らになりすましてあの家族を 襲った。しかも値を釣り上げて。そうだな?」 「釣り上げたって幾らだよ!?」
直也が振り向いて聞いた。
「・・・・1億」
「1億ぅっ?」
直也が素っ頓狂な声をあげる。
「馬鹿が。で、父親が渋った結果、この様かよ」
鉄男は歯軋りした。
「お前がチビを連れ出したりしなきゃ、こんな
面倒にはなってねえんだぞ!?」
直也は鬼の形相で勇次を怒鳴りつけた。 「・・・・そもそも、あんた達が 賢君と俺を誘拐したからこうなったんじゃないですか?」
勇次は直也を見据えてハッキリと言った。
「んだとぉっ!?」
直也が身を乗り出し、勇次の胸ぐらを掴む。 「よせっ!」
鉄男の一喝で、直也は舌打ちと共に勇次から
渋々手を離した。
「とにかく今は金を取り戻すんだ。
お前もそうだろ?」
そう言って鉄男は、勇次を見た。
「お金なんか要らないです」
勇次はキッパリと言った。
「あ?」
鉄男は弟と目を見合わせた。
「ただ、あいつらは許せません」
勇次の目の中に怒りの炎が宿っているのを
鉄男は見た。口の端で小さく笑う。
「でも鉄ニイよお、実際これからどうすんだ?」 「おい、奴らのヤサはわかんねえのか?」
鉄男は勇次に聞いた。
「ヤサ?」
「住所だよ」
勇次は少し考えるとポケットからガラケーを
取り出した。
「この電話に向こうから何度か連絡が
ありました」
鉄男は勇次からガラケーを受け取ると、
着信履歴を開き、見覚えのない番号をタップし
耳に当てた。 コール音が続く。応答は無い。
「やっぱ出るわけねえか」
鉄男はガラケーを座面に放り出した。
「番号から洗うか!?」
直也が聞く。
「いや、俺らと同じトバシの携帯だろう。
意味はねえ」
「くそっ!」
直也は運転席のヘッドレストを叩いた。
勇次も落胆の表情で、筧から得た煙草を
取り出し咥えるとライターを口元に近づける。 「なんだ?禁煙中じゃなかったのかよ?」 「・・・・」
勇次の耳に、鉄男の言葉は入っていなかった。 手元のライターを凝視していたから。
「これ・・・・もしかしたら」
勇次は兄弟にライターを差し出した。
ライター本体には、
『BAR Thanatos』、
店名と共に電話番号が記載されていた。
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