第5話 寝起きドッキリなのかなぁ


 朝起きると、エレが僕に抱きついて寝てる。後ろには、なぜかゼロがいるみたい。


 ゼロは早起きだから、多分、起きてエレがいない事に気づいて来たんだろう。鍵かけとかなくて良かった。


 結界も、エレとゼロだけは入れるようにしておいたから。


「ゼロ、起きてるなら離れて」

「昨日、エレとこういう事してたんだろ?あいつ、デューゼにぃになにか言われたと思ったら、睡眠薬混ぜた水飲ませてきて。しかも、共有まで切って。計画的犯行だ」


 うん。なにやってんのこの子は。ゼロに効く睡眠薬作れるなんてすごいねとか、そういうのは良いんだよ。それより、ほんとに計画的反抗すぎる。


「エレばかり抜け駆けずるいんだ」

「うん。御愁傷様」

「俺も、フォルと一緒に寝る」


 もう朝だから。僕は、正式に双子宮勤務は今日からだけど、初日から、これって。休む時間ないかもしれない。


 それもそれで良いけど。前はろくに寝れもしない生活だったから。


「それにしても、フォルが寝てるところ初めてみた」

「それはそうだろうね。僕はエレの前以外はこんなに寝ないから」


 エレは、魔力垂れ流し状態なんだ。その魔力が、僕には心地良いんだ。


「まぁ、それでも、熟睡する事はないけど」

「俺が来たのも気づいてた?」

「うん。まさか、ベッドに潜り込んでくるとは予想してなかったけど」

「……だって、エレばかりずるいから」

「それで、布団に潜り込まれる僕の事を考えてよなんて言っても意味ないよね」

「うん」


 嘘でも否定して欲しいとこだけど。


「ねぇ、ほんと頼むからそろそろ離れて」

「……」


 やっと離れてくれた。そして、エレはまだ寝てる。


「服も買わないと。今日買い行く?」

「行く」

「じゃあ、エレ起こすの頑張れー」


 面倒なんだよね。この子って全然起きないから。そこも可愛いとこなんだけど、自分で起こすのはやらないかな。


「……フォル、エレに内緒でキスしてくれた。好き」

「エレもするのーーー!」


 わぁ、すごーい。すぐに起きたよ。


 ……なんでこの二人を選んだんだろう。時々、我に帰るようにそう思う。それでも、エレとゼロ以外の選択は考えられないけど。


「エレ、服買い行くから」

「フォルがエレのお洋服を選んでくれるの?」

「そうして欲しいなら」


 エレは大喜び。そんなに嬉しいことかな?


「早く準備するの」


 エレが一人で身支度できるはずもなく、全部ゼロ任せ。何度も言うようだけど、エレは幼女の見た目した成人だからね?


 十五で成人だから、子供といえば子供なんだろうけど。でも、身支度はできる。年齢的に。


「終わったの」

「うん」

「フォル、ゼロ……いたー!」


 デューゼ、ゼロがここに来た事を知らなかったか。言わずに来てたなんて。


「おはよ。ゼロは、急に来て布団に潜り込んできたよ」

「……両手に花」

「甘いものばかりに目を奪われて、人の寝込みを襲うようなのを花なんて言えないんだけど?と言うか、ゼロ男だよ?分からない?」


 この年齢だと……元の年齢でも、若干それはあるけど。もう女の子にしか見えないんだよ。見た目が可愛すぎて。

 僕も人の事言えないんだけど、華奢な方だから。特にそう見えるんじゃないかな。


「お花なの」

「エレは……うん。そうだね」

「むにゅぅ」


 強かさを秘めている花って考えれば、見えなくはないかな。


「お洋服買いに行くの。ついでにクレープも」

「ほんと好きだよね」

「好きなの。だから、早く行く」

「はいはい」


 エレに急かされる。おじさんは朝から元気に動けないんだよ。とか言いたい気分だけど、見た目も中身もそんな歳じゃないから。


 それに、体力はある方なんだ。

 気疲れはしてるけど。


      **********


 都は朝から騒がしい。昔は、夜間の見回りの帰りによく、買い物してたよ。

 普通は見回り前に仮眠を取るんだけど、他の仕事で忙しくて仮眠なんて取れなくて。だから、朝早くからやっている店には世話になった。


 特に、薬屋にはいつも栄養ドリンク買い行ってたんだ。疲れている相方への労いとして。

 僕の見回りの相方って、九割リーグで 一割は、幼馴染のクリンガー、クリーって呼んでるんだ。クリーとだったんだ。


 二人とも、いつも喜んで受け取ってくれてたよ。市販で売っているものだからって。


「フォル、あそこのお店行きたい」

「良いよ。エレ、今は大丈夫?」


 昨日の事があるから心配なんだ。エレが、また怯えるんじゃないかって。


「うん。大丈夫なの。ここも楽しいって思っているの」

「そっか。良かった。エレが楽しんでくれて、安心した」


 そう言って、エレに笑顔を見せると、服の袖をくいくい。ゼロが、不満そうにして僕を見ている。


 片方に言ったら、もう片方も。これが、エレとゼロと一緒にいる時の鉄則みたいなんだ。


「ゼロも楽しんでいてくれて嬉しいよ」

「……うん」


 嬉しそう。エレが不満そうだけど。


「お食事の時間なのー」


 そう言って、エレがゼロに抱きついた。


「直でだよ。直で」

「……エレ?言葉」

「ふみゅ。ゼロが魔法使ってくれたの。エレが寝てる間に」

「外でくらい、まともに話せるようにしておこうって思ってな」

「ふみゅ。で、お食事なの」

「こんなところでできるわけねぇだろ。帰ったらやってやるから」

「みゅ」


 なんだかんだ言いつつ、エレとゼロはほんとに仲が良い。


「いらっしゃ……これはこれは、ベレンジェア様。それに坊ちゃんまで」


 ここは、僕が私服を買う時に利用している店なんだ。店の店主、ウィビセアは、主様に使える使用人。普段はここで店をやってて、贔屓にしてもらってるんだ。


「久しぶり、ここって子供服あるかな?」

「ええ、ございます。そちらのお嬢様方のですかね?」

「うん」

「これが噂の……本当に可愛らしい双子様。ぜひ、お二人に似合う服をと言いたいですが、今すぐにお作りはできませんので、今回はここにある中からお選びくださいませ」


 一眼見ただけで双子姫と見抜くとは。さすがは、主様の使用人を長年勤めているだけの事はあるよ。


「坊ちゃん、選んであげてくださいませ」

「ゼロは自分で」

「指輪まで渡した仲ではございませんか」


 あっ、これ主様から報告来てる。


「ゼロ坊ちゃんも選んで欲しいですよね?」

「欲しい」

「と言っております。どうされるのですか?坊ちゃん」


 これは、断る事なんて出来なさそうだ。


 仕方ない。服の一つくらいなら選ぶか。それで、二人が喜んでくれるんなら。


 エレだけにしようと思ってたけど、またゼロが拗ねるのも面倒だし。


「分かった。僕が選ぶよ」


 エレとゼロがハイタッチ。エレとゼロがウィビセアにハイタッチ。なんなの?初めから共犯だったの?仕組んでたの?


「ちなみに、エレは連絡先まで知ってるにゃ。時々、女の子を教えてもらってるにゃ。可愛くしていれば良いって教えてもらったにゃ」

「なんでにゃなの?」

「猫可愛い。可愛い猫。なら、エレも猫なら可愛いなの」


 その発想に至ったのが可愛いよ。というか、共犯認めたよ。


「エレは悪くないんだ。昨日、この計画を立てたのは、俺とデューゼなんだ。服ないから服買い行くだろうって」

「選んでくれない?」

「選ぶよ。ほんと君らって、そういう事ばかり覚えるよね。エレは可愛いだけだけど」


 一度言ってしまった以上は選ぶ。不満はあるけど、僕が二人に負けただけだから。


「これとこれはどうかな?」

「みゅ。可愛いの」

「可愛い」


 二人とも、逆を見て言ってる。


「ゼロ、これにするべきなの」

「エレ、これにするべきだ」


 最終チェックは、自分でじゃないけど良いのかな。二人が良いなら良いんだけど。自分が着るわけじゃないし。


「フォルありがとなの」

「フォルありがと」

「ふっふっふ、これでゼロが可愛いになる」

「ふっふっふ、これでエレが転ばなくなる」


 可愛くなるは否定しないけど、転ばなくなるはないでしょ。動きやすそうにはしたけど、エレは何もなくても転ぶ子だから。


「しゅきしゅきー」

「しゅきしゅきー」

「似合っております。坊ちゃんも」

「可愛いよ。エレもゼロも」

「そうなの。ゼロ可愛いの。可愛い中に少しのかっこよさがある、まさにこれだぁーって思うお洋服なの。フォルすきー」

「そうなんだ。エレ可愛いんだ。動きやすさ重視で、スカートのようなミニズボンが可愛さを引き立ててるんだ。フォルすきー」


 二人とも、互いの服の好評。自分の服に関してはどう思ってるんだか。

 エレとゼロは、互いが気に入れば、それで気に入っているとか言いそうだけどね。


「でも、これだとゼロの可愛さが露見して……ふみゃぁ」

「エレのツノが露見して……ふみゃぁ」


 可愛さはどうでも良いけど、ツノの方は対策を取っておいた方がいいか。


 聖星は、龍と近しい特徴がある。ツノとしっぽと羽根とかね。エレは、何かの拍子にツノとしっぽが出てきちゃうんだ。


 帽子を被らせれば、専用のじゃないとか。


「エレお嬢ちゃん、髪をこうすれば……どうでしょう?」

「ふみゅ。気に入ったの。ありがと」


 お団子可愛い。これでツノ問題が解決できているのかは、不明だけど。でも、エレが気に入っているし、もし出た時に解決してなかったら考えるで良いかな。


 ここは、神獣の暮らす特殊な場所なんだ。それに、ここではエレを恐れるような人はいない。ギュリエンは、この子らにとっても住みやすい場所なんだろうね。

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