第9話 ち、ちょっとオオカミさ……ええええっ!?

 え!?

 突然とつぜん言葉ことばにわたしはびっくりした。

 犬上いぬうえくん、ってたんだ!?


「フ! なにかとおもえば……。そんなことか!」

 委員長いいんちょうはなわらう。

「ゴメン! コウモリ! おまえ関係かんけいないのに、んじまう。でも、こまってるヤツがいるんだ! だからけない! おれのこるってことは、お前も残れる。たのむ! 協力きょうりょくしてくれ!」

 たことないような犬上くんの真剣しんけんかお

 わたしはポカンとしながらもうなずいた。


「バカバカしい! そのオオカミ……意外いがいよわいよ? いいの? しんじて?」

 風紀ふうき委員いいんちょうがバカにする。

「弱くなんかありません!」

 わたしは思わずってしまった。

 こころそこからはらったもの!

「ずいぶん、いかぶるじゃないか! お前らなんかにやりたくてもゆるしてもらえない人間にんげん気持きもちがわかるか! いいだろう。ってやるよ! ボクが勝ったら、そいつはボクの下僕げぼくだ!」

 言うがはやいが風紀委員長がはしす。

 走りながらもうでるう。

上等じょうとうだ!」

 犬上くんがそれにこたえる。

 はげしいいがはじまった。

 委員長の自信じしん本当ほんとうなんだろう。

 はなれたところからツメを振るう委員長。

 激しい攻撃こうげきのせいで犬上くんはちかづくことができない。

 

 あの見えない攻撃。

 あれはいったい、なんなんだろう?

 どうしておとで見えないの?

 かんがえるんだ!

 あたまなかには、さっき工場こうじょうの中でいたバイオリンのメロディがかえしている。

 あのメロディ。どこかで聞いたことがある。

 童謡ナーサリィ・ライム。何かあれにヒントがある。そんながする。

 日本にほんうたじゃないのはたしか。じゃあ、どこで聞いたのか?

 あれは……なぜか映像えいぞう一緒いっしょおぼえている気がする……ずっとむかし

 思い出した! |あの事故じこ《・・・・》のあと入院にゅういんしていた病院びょういんだ!

 いくつかの記憶きおくをなくし、父方ちちかた祖母そぼ名乗なのるおばあちゃんとはじめて出会であった待合室まちあいしつ

(そうだ! テレビでながれていた英語えいごの歌!)

 画面がめんの中では、二ひき動物どうぶついかけっこをしていたように思う。

 一匹はさるだ。もう一匹。

 あれは……あのちいさなまるみみの動物は!


「くっ!」

 犬上くんが、ひときわおおきく腕を振るった。

 パシイッ!

 またはじいた! すごい、犬上くん!

「そうか! できるぞ!」

 犬上くんがさけんだ。

 はじかれた見えない攻撃が、キラキラと空中くうちゅうい、えていく。

 ――つめたい!?

 ほおにれたそのキラキラは、びっくりするほどの冷たさだった。

 これってもしかして『霧氷むひょう』!?

 空気くうきが冷やされてできる、小さな小さなこおりのカケラ。

 これができるってことは!


「なに、ぼーっとしてるんだい!?」

 しまった!

 油断ゆだんしたすきを見のがさず、委員長がわたしにかってツメを振る。

「コウモリ!」

 犬上くんがかぜをまとって、けた!

 それは、ただの風じゃない。

 まもものやさしくつつみ、める者は何者なにものであろうとけない。

 見えない攻撃が、はぜるようにっていく。

「風のたて! アイツの攻撃は見えないけれど、これならふせげるんだ!」

みどりの風〟がきらめき、わたしはうなずいた。

 そして――

「オオカミさん! あのひと、イタチです! 鎌鼬かまいたち! そして、真空しんくう使つかい!」

 イタチ!

 やわらかいからだとすばやいうごきの小さな猛獣もうじゅう

 そして、あの童謡の曲名きょくめいは『 Pop goes the weaselいたちがポンといなくなった

 イタチのかくれんぼの歌だ。

 おまけに、日本には真空しんくうを使って体にきずをつけるという伝説でんせつがある妖怪ようかい「鎌鼬」のおはなしがある!

 見えない攻撃、その正体しょうたいは真空のやいば。空気がければ音はつたわらない。

 だから見えなかったんだ!

「ハ! それがわかったからってどうなんだい」

 委員長が、また鼻で笑う。

「━━━━━━━━━━━━━━ッ!!!」

 わたしはもう一度いちどさけんだ。

 今度こんどはちゃんとねらって!

 狙ったのは右肩みぎかた! さっき、わたしのこえ反応はんのうしてべっこうあめみたいにひかった場所ばしょ

 あれがきっとコルボの少年しょうねんが言ってた、クオリアのコアだ。

『コアに直接ちょくせつ、攻撃をてれば、コアがフリーズでして、一ヶ月かげつ変身へんしん出来できなくなる』

 だけど――ダメだ! ち抜けない!

 離れすぎてて、声がとどかない。


「そのひどい声、やめろっていってるだろぉおお!」

 委員長が頭をかかえながらさけんだ。

 その左手ひだりて、すべてのツメがのびている。

おくだ! ホロウクロウ!」

 振りろされたりょうの手。

 みぎひとつ、ひだりいつつ。見えないけれど全部ぜんぶむっつの攻撃が、わたしと犬上くんに向かってんでくる。

 それをける〝緑の旋風せんぷう〟。

 バシィイイッ! 空気がはじける音がした。

 だけど――

「くっ……!」

 犬上くんの表情ひょうじょうが、いたみにゆがむ。

「ぃ、ォ、オオカミさん!」

「思ったとおり! その盾、ずいぶん小さいじゃないか! 一人ひとり守るのが精一杯せいいっぱいってとこか!?」

 委員長があざ笑う。

大丈夫だいじょうぶだ! コウモリ! それより、もしかして〝見える〟のか? あいつのコア!」

「はい!」

 わたしはうなずいた。

「だったら!」

「え!? ち、ちょっとオオカミさ……ええええっ!?」

 突然、犬上くんがわたしを抱きかかえた。

「いくぞ!」

 そのまま委員長に向かって走り出す。

「く、させるか――っ!」

 委員長がふたた両手りょうてで空気をいた。うつろな刃がこっちに向かって飛んでくる。

 だけど――

 バシィイイッ!

「これならどこから飛んでこようと、関係ないだろ!」

 風の盾は小さい。人一人を守れる大きさしかないんだろう。

 けれど、つよい。

 カマイタチの攻撃をすべて防いで、弾いてくれる!

 犬上くんと抱き抱えられたわたしは、風に乗ってけていく。


「どこだ!? アイツのコア!」

「右肩です! わたし、出来ます!」

 そうだ。出来そうな気がする!

 でも、まだとおい。まだだ、まだ、まだ!

「く、るなあああああっ!」

 委員長がシッポを巻いたその瞬間しゅんかん

「━━━━━━━━━━━━━━ッ!!!」

 わたしはさけんだ。

 ねらうは、右肩のべっこう飴! クオリアのコア!

 バイオリンの周波数しゅうはすう。声をしぼって集中しゅうちゅうさせる!


 ヴ、ヴヴヴヴンッ!


 わたしの声に反応して委員長のコアがふるえ出す音が見えた!

「う、あああああああっ!」

砂飴ざらめのベージュ〟の光に包まれ、委員長はそのにへたり込んだ。

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