第24話

「それでこれからどうすんだ? といっても決まってるな......」


 暁真が眠そうにそう聞いた。


「ああ、やはり坐君が必要だ」


「天陽さま......」


 それ以上風貴は言わなかった。 必要なことは風貴もよくわかっているからだろう。


(朱燎鬼には正直手も足も出なかった。 抑えるだけでせいいっぱい...... 紅姫さまはそれを容易くねじ伏せた。 あの力をみれば、坐君そして強い心かを必要だろうということは皆わかる)


 私は町を出ながらそう考えていた。


「それなら、御魂社みたまやしろにいきましょう」


 後ろに蒼姫がいた。


「なんできてんだよ。 国の許可取ってないだろ」


 暁真がそういった。


「別にいいじゃない。 私もついていくわ!」


「姫様を連れていくわけには...... なにかあれば国の問題になるので」


 興奮する蒼姫に風貴がいう。


「ねえ、天陽いいでしょ。 私は今のままじゃだめなの。 ねえさまにも民にもなにもできない...... このままじゃ私は私を認められない」


 その真剣な顔は覚悟を感じさせる。


(姫という責任を必死にこなそうとしている。 私と同じか......)


 そのとき気づいた。


(そうかよろしくお願いします...... なるほど、この事か。 紅姫さまはこの事をしっていて......)


「わかりました。 ですが姫としては扱いませぬ。 お覚悟を」


「おい!」 


「天陽さま!」 


「わかった! それでこれからさま付けなんてしないでよ」


「わかった。 蒼姫」


 私がそういうと満足げに蒼姫は微笑み、先へと歩きだす。


「さあ、なにしてんの。 さっさと行くわよ」


 あきれたような風貴と暁真を蒼姫はうながした。


 

「それで蒼姫、ここか」


 私たちは蒼姫に連れられて、洞窟へとやってきた。 そこには鉄の扉があり、前には数人の武装した兵士たちがたっている。


「ええ、ここは【彩練洞】《さいれんどう》、この国の御魂社よ」


 そういうと蒼姫は兵士たちに近づく。


「蒼姫さま。 なにか...... まさか契約を!? お止めください!」


「そうです! もしなにかあったらどうなされる! 前もお止めしたのに勝手に夜忍び込んで!」


 兵士たちが必死に止めている。


「そこをあけなさい。 私たちは民によっていかされている。 今の私ではその力になれないことがわかった。 力、そして覚悟が必要なの」


 そう凛といいはなった。 兵士たちはまごついていたが、諦めたように道を開けた。


「......わかりました。 しかしくれぐれもご無理はせぬように」


「必ずいきてお戻りください。 よろしいですね」


「ええ、死ぬつもりはないわ」


 蒼姫がそう笑うと、重い音をたてて扉が開けられ、私たちも蒼姫のあとに続く。


 洞窟は左右に灯りがつけられ、とても静かで歩く音が反響する。 目の前に四本の分かれ道がある。


「ここからさきに四部屋あるわ。 私はここにいく」


 そういうと蒼姫は進んでいった。


「ならおれも行くか」


「......やはり止めても無駄ですよね。 天陽さまお気をつけて」


 暁真、風貴はそういって別々の道を進む。


「さて、私も」


 前の道をすすむ。 すこし進むと扉があり、開けると、なにもない部屋に、夕顔の地下にあったような紋様がかかれた地面がみえる。


(ここの空気はやはり他とは違う...... 異常に清廉というか淀みがないな)


 進み出ると、その中央に座り集中する。


 深く自分に潜っていく感覚があり目を開ける。


 そこは洞窟のようで、複数の道が目の前にあり、左右の崖があり、したには溶岩が流れる。


(まさに、今の心の有り様だ...... どこに進むかを迷い、力を求めている)


 雲晶や錬舞がそばにいる。


「雲晶が百はいるな。 かなりふえた。 朱燎鬼との戦いでかなりり無理をしたからか......」


 坐君は自らの心をうつす。 いま必要と考えているものはおのずとみつかるが、それを操れるだけの心の強さがないと自滅する。


(麻生のように......)


 分かれ道の前にたち、目をつぶる。 


 仄かに向こうになにかを感じる。 そちらへすすんだ。


 先へと進むと、錬舞が前にでる。


「なにかいるのか...... 雲晶、甲冑に」


 私は雲晶をまとう。


 奥に進むと、広い場所になっており、すこし圧迫感を感じる。


(なにかいる......)


 目の前に雨のようにポタポタと水滴がたれている。


「みえないな......」 


 錬舞がひれを回転を始めた。 


「上か!」


 上を向いた瞬間、目の前になにかが放たれる。 それを錬舞の回転で切り裂いた。 それは弾け水しぶきがとぶ。


「これは......」


 上をみると半透明の大きなヤモリのようなものが張り付いていた。


「拒色、いや違う。 これは......」


 それが地面にべしゃりとおち雫のように弾けた。 


 その水溜まりが集まりまたとかげのようになった。


洸蜥こうせきか。 いけ錬舞!」

 

 錬舞は回転して洸蜥を貫く。 洸蜥は弾けるが再びあつまり、錬舞の体にまとわりついた。 


「くっ、錬舞......」


 ひれの回転をとめられ、そのまま錬舞は姿を消した。


(くっ、痛みが、だがあの液体では、実体をとらえることもできない! 晃玉...... いやこの世界で心を失うとすぐ死ぬ。 確実に当てかつ短時間じゃないと.....)


 洸蜥は口を開けると複数の玉になってこっちに飛んできた。


「雲晶!!」


 雲晶を壁にしてふせぐ。 後にとんだ玉は固まり洸蜥の姿となる。


(やるしかない!)


「雲晶! 隙間なく囲え!」


 私の身に付けていた雲晶は洸蜥に向かうと、上下四方を囲み小さくなった。 どんどんと中から音がする。


「晃玉!!」


 呼び掛けで晃玉があらわれる。


(くっ、呼ぶだけでかなりつらいが......)


「晃玉! 放て!!」


 晃玉は雲晶に光を照射する。 


「ぐっ!!」


 痛みが体をおそう。 雲晶の中の洸蜥がやけて暴れている。


(痛みを我慢しろ! もうすぐだ! 自分の限界まで! 洸蜥に私の心の強さをみせろ!)


「ぐううう......」


 雲晶の中から強い威圧感はなくなって、静かになった。


「はぁはぁ、雲晶あけろ」


 雲晶がひらくと、やけた洸蜥が近づいてくる。  


「【流雫】《りゅうだ》......」


 そう告げると流雫は消えていった。

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