第23話
「くっ! なにかくる!」
強烈な威圧感が遺跡をつつむような感覚がおこった。 耳鳴りがして潰されるような圧迫感がある。
「は、はっはっはは! 異蝕よ! これで...... いやちがう! これは!!?」
赤い穴から赤い光の柱がおりたち麻生を包む。
「ぐああああああ!!」
麻生が絶叫した。 すると禍々しい力が波動のようにつたわる。
「あれは天陽さま!?」
風貴が暁真と蒼姫をつれそばにきた。
「どうやら、このような不完全で呼ぶ力もたりないことから、飢君化したようだ」
「あれが飢君......」
蒼姫がことばをのむ。
赤い光がおさまると、麻生は燃えるような赤い肌、四腕の巨大な一つの角をもつ巨人の飢君になっていた。
「がぎぎぎ...... があああああ」
「あれは【朱燎鬼】《しゅりょうき》! 灼熱をあやつる! 離れろ!」
風貴の土波で離れる。
「がぁあああああ!」
そう辺りをつんざくような不快な声をだしながら、朱燎鬼は地面を破壊してこちらに迫る。
「くそっ! 逃げ切れねえぞ! 吐きだせ玄吐!」
暁真から黒煙が放たれる。
「かはぁぁ!!」
それは朱燎鬼の口から炎が吹き出されかきけされた。
「あつっ!! なんだこの熱波は! 天陽あれは!!?」
「朱燎鬼は危険だ! かつて数体で国を滅ぼしたとある......」
「やべえじゃねえか! 逃げるぞ!」
「だめ!」
蒼姫が土波から飛びおりた。
「ここでとめないと民が危険にさらされる! 蒼羽!」
蒼姫は蒼染を大量にはなち熱波をとめる。
「くっ! 二人とも蒼姫を!」
「はい!」
「しかたねえ!」
赤い巨大な体躯を揺らして朱燎鬼がせまる。
「いななけ! 吼爪!」
「吠えろ! 咆赤!」
「雲晶、錬舞!」
二人が前にでて、朱燎鬼とたたかう。 私は錬舞でその足を射抜くが、足を止めるのが精一杯だった。
(まずい! これではじり貧だ! やはり晃玉をつかう! ただ今回は収束させる鏡がない...... 倒しきれるか)
「だが、やるしかない! 皆離れろ!」
「天陽さま!」
「こい風貴!」
離れたのを見計らい私は晃玉をよぶ。
「あまねく照らせ晃玉!」
頭上に晃玉が現れ、光を照射した。
「がああああああああ!!」
光は朱燎鬼を照らし、そのからだを灼く。
(くっ! きつい! 体が焼けつきそうだ!!)
巨人はその腕を振り回し抵抗している。
「ぐううぅ......」
意識がもうろうとしてきた。 体から湯気が立ち上る。
「おやめください!! 天陽さま!」
「しぬぞ天陽! あつっ! なんだこの体の熱!」
風貴と暁真が私をとめようとする。
「二人ともはなれろ...... 焼け死ぬぞ」
そのとき凛とした声が聞こえた。
「冷やせ、
意識を失いそうなとき、周囲の気温が一気にさがる。 周囲に無数の白い蝶がいる。 私の体温も下がり晃玉はきえていった。
「これは......」
(氷の【凍蝶】《とうちょう》か......)
「ねえさま......」
奥から赤い髪の着物を着た女性がゆっくりと近づいてきた。 その凛とした立ち姿からは、畏敬を感じざるをえない威風をかんじさせる。
「蒼姫。 大丈夫かしら」
「ええ
朱燎鬼がただれた体でこちらに向かってくる。
「くっ!」
「およしなさいませ。 その体では戦えません」
そう私にいうと、女性ーー紅姫はゆっくりと扇子を広げた。
「舞いなさい
そう静かにいうと大きな赤い蛾があらわれ、舞うとが赤い燐粉が放たれる。 その燐粉は朱燎鬼の体に触れると一気に燃えだした。
「があああああ......」
燐粉を浴びた朱燎鬼の体は、炎に包まれ、抵抗するまもなく瞬く間に溶けていった。
(あれは......
「ねえさま。 なぜあそこに......」
そう蒼姫はきいた。
私たちは美染の国、【美織宮】《びしきぐう》の主殿に招かれていた。
「わたくしもこの国で起こっていることを調べていました。 あなたが調べていたように......」
そう静かに紅姫さまは目を閉じ答えた。
「そうだったの......」
蒼姫は言葉少なにそうこたえた。
「あなた様方にはこの国のことで、ご尽力いただき誠にありがとうございました」
そう紅姫は私たちに頭を下げた。
「いえ、こちらこそ、命を助けていただきました。 それで首謀者は?」
「......残念ながら、見つけることはできませんでした。 生け贄が解放された途端、その姿は闇へ溶け込むように消え去ったようです」
(消えた...... 何者なのだろうか......)
「麻生はこの国の役人でしたが、不正が発覚し逃亡していた者です...... 残りのものも国へ不満のあった役人たちでした」
(不満のものたちを束ねていたか)
「それで天陽どの。 この国へはなにようでこられたのですか?」
「私の名を......」
「ええ、天沼の国、前主座、天頼さまのご子息だということは存じております」
そう紅姫さまはそう優しげに微笑んでいった。
「えっ? あなた、そうだったの......」
そう蒼姫が驚いている。
「ですが特に理由というものはありません。 他国がどうなのか、自らがどうすべきかを学ぶために旅をしているのです」
「......自らがどうすべきか......」
そう考えるように紅姫はいう。
そのあと私たちは宮中で歓待された。
「では失礼します」
そう紅姫さまにあいさつした。 前日、宮中でもてなされた私たちは、次の旅へ出立することにした。
「わかりました。 旅のご無事をお祈りさせていただきます。 そしてよろしくお願いします」
そうやさしい笑顔を向け、頭を下げた。
(お願いします...... あの羽織の男のことか)
私たちは宮をでた。
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