第19話
「そうですか...... そのような決断を」
風貴がそうつぶやく。 その顔は納得しているようだ。
夕凪の屋敷に戻り、みなに話した。
「すまぬ。 みな命まで懸けてもらったのに主座にならず約束を破った」
そう私はみなに頭を下げた。
「かまいませぬ。 私はそういうお人だから付き従うのです」
「そうですね。 天陽さまらしいです」
「まあ、いいんじゃねえのか。 知識も人脈もなく国を治めるのは容易くねえしな」
風貴、流雅、暁真の三人はそう受け入れてくれた。
「それがよいとおもいます。 しかし、これからどうなさるおつもりですか?」
夕凪はそう聞いた。
「ああ、世界のことをみて回ろうと思っている。 私はこの世界のことをなにもしらぬ」
「それはようございますな」
夕凪は微笑んだ。 私は夕凪を空いた至文将に推挙したが、夕凪は断ったという。 宮中よりこの生活があってるといって笑った。
「では天陽さま。 どちらにいかれましょう」
「ふむ、特に決めてはいないが......」
「それならば西の美染の国にいかれてはどうですかな? あの国は平和で経済も栄えております。 学ぶこともあるかと」
「そうか、夕凪がいうならばそうしよう。 暁真、流雅二人はどうするのだ? 主座にいえばその身を引き受けてくれよう」
「あん? ついていくに決まってるだろ。 まだお前のことを認めてる訳じゃねえぞ。 早く認めさせてみろ」
「なんだと! 貴様! 天陽さまを認めぬとはどういうことだ!」
「うるせえな! 俺はお前と違って飼われた小鳥じゃねえんだよ!」
「貴様!!」
風貴と暁真はそういいあってる。
「私はあなた様が国をつくられるとおっしゃったので、ついて参ったのです。 そのお約束をお守りくださるまで、ついて参ります」
微笑みながら流雅はいう。
「いや、それは...... まあよいか」
ただ流雅は子供たちの生活が落ち着くまで、夕凪の店にいるといるといった。
「美染の国にはいったな。 町までもうすこしか」
街道を歩きながらそう暁真はいう。
「ああ、風貴、前にいったのだろう。 美染の国とはどんな国だった? 主産業は織物ときくが......」
「そうです織物が主要産業です。 蚕の大量養殖により、よい生糸がつくられ、染め物、織物の技術が高いです。 世界各地に販売していますね」
「ふむ、かなり豊かな国ときく」
「はい、治安もよく。 みな安心して暮らせているようでした」
「なるほどな。 しかし小国だ。 隣国【仄火の国】《ほのひのくに》との関係は緊張状態のはずだ」
暁真はそういった。 仄火の国はここ数年で近隣を併合し、大きくなった国だった。
「確かに仄火の国はかなりの軍事国家ときく。 よく潰されずに残っているな」
暁真は首をかしげた。
「それは、【美染姫】《びせんき》という主座となった姫がいるからだ。 姫はとても強い坐君を継承していて、仄火の国も容易くは手出しできないのだ」
「継承...... そんな坐君があるのか?」
暁真がきいてくる。
「ああ、坐君によってはその家系のものに契約するものもいる。 そのぐらいの知性がありかなり高位のものだ」
「そうなのか...... 俺も高位の坐君がほしいな。 六将にも簡単にまけちまったからな」
「私もだ...... 私がもう少し強ければ、天陽さまもあれほど危険な坐君を使わずともよかったのに」
二人とも肩をおとしている。
「それは同じだな。 多くのものがいたからなんとかなったが...... 力も知識も足りていない」
(天道さまがまた戦乱が起こるといっていた。 今はまだその兆候はないが...... いや散発的な争い起こっている。 その数がこれからもっとふえるように感じる)
私たちが森のそばの街道を歩いていると、森の中から悲鳴が聞こえた。
「いくぞ!」
三人で近づくと、森に二台の荷車があった。 それを十人ほどの男たちが武器を手に囲んでいる。
(野盗か...... 人質がいる。 まずは......)
目の前を青い蝶が無数よこぎる。
「なんだ!?」
「うわっ!!」
蝶々は野盗たちの周りを飛ぶと、周囲に白い霧のようになった。
「つめてぇ!!」
男たちは白くなっていく。
「坐君...... この寒さ、冷気か! よし! 今のうちに人質を!」
「はい!」
「おお!」
私たちも参戦し、荷車の周りの野盗たちを倒し、商人らしき人質をまもる。
「【蒼羽】《そうう》もういいわ」
そう木々からきこえると、蝶々は消えた。
そして一人の長い髪の少女が現れた。 高価な簪をつけ、珍しい半分の袴をはいて長い羽織をはおっている。 凛とした顔をし、堂々と歩くその姿は自信があることを感じさせる。
「大丈夫かしら」
その少女は、商人たちに話しかけた。
「はい!
そう商人がいうと、蒼姫はこちらに近づくと、興味深そうに私たちをじろじろみた。
(蒼姫、確か主座の妹か...... しかし供もつけず、なぜこんなところにいる)
「ふーん、そう。 我が国の民を助けてくれてありがとう」
そう礼をいう。 姫の言葉使いからは貴族の姫君といった堅苦しさはなく、その快活な性格がみてとれた。
「それでは、私たちはこれで失礼します。 蒼姫さま」
「ちょっとまって」
私たちが去ろうとすると、そう蒼姫は呼び止めた。
「あなたたち、私の国にいくのよね。 それなら一緒にいきましょう」
(そうだな。 まだ野盗もいないとも限らない)
「わかりました」
うなづく風貴たちの顔をみて、私たちはついていくことにした。
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