夫、怒る
珍しく、夫が怒っている。
いつもの光の石を使ったリモート会議だ。どうやら、「大典官」に対して相当な不満が溜まっているらしい。
普段、会議の内容には耳を塞ぐようにしているけれど、今日はどうしても聞こえてしまう。
「だから、その解釈だと全体の流れが…!」なんて声が荒くなるのを聞いて、私は思わず耳をそばだてる。
どうも「大典官」が、夫や「伝話創作長」たちの意見を頭から否定し、それでいてほとんど同じような提案を後から出してくるらしい。
的外れな発言で進行を振り回すこともあるとか。
いつもは穏やかな夫だけれど、そんなやりとりが続けばさすがに怒るのも無理はない。
会議が進むにつれて、夫の口調がますます荒れていくのがわかる。
私はそっと席を立ち、台所に向かうことにした。
「そうだ、夢見の花パフェでも作ってみよう」
このパフェは、夜に食べると「良い夢が見られる」と言われる異世界のスイーツで、ほんのりと甘く優しい香りがする。
彼の苛立ちが少しでも和らぐかもしれない。
まず、棚からパフェグラスを取り出し、窓辺に置いておいた果物をそっと手に取る。
これは、夜中に「凍結妖精」がそっと氷の魔法をかけて冷やしてくれたもので、指先にひんやりと心地よい感触が伝わってくる。
この冷たい果物を少し小さく切り、グラスの底に並べると、ふわりと甘い香りが広がった。
その上に、乳妖精からもらったミルクで作ったまろやかなアイスクリームをのせる。
ふんわりした口当たりが果物の酸味とよく合うように思えた。
アイスクリームの上には、軽くホイップしたクリームをそっと重ねてふんわりした層を作る。
最後に、夢見の花から取ったシロップをたっぷりかける。シロップを垂らした瞬間、ふわっと甘酸っぱい香りが立ち上り、色鮮やかにパフェが仕上がっていく。
ちょうどその頃、会議が終わったようで、夫が重い足取りで台所に入ってきた。
「終わったの?」と声をかけると、まだ少し怒りの残る顔で「うん」とうなずく。
私は、できたての夢見の花パフェを台所からそっと差し出すと、夫は驚いたように「ありがとう…」と言いながら、一口食べた。
パフェの甘さが広がると同時に、夫の眉間のしわがほんの少しずつほぐれていくのがわかる。
私はそんな彼を見て、内心で小さくほくそ笑む。どうやら、今日も少しだけ役に立てたかもしれない。
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