第25話 その7

「鹿児島言うたら、ワシが一番驚いたなぁ桜島の噴火じゃが、地元の方々は灰で大変にご苦労されとるものね」と心平。


「鹿児島にも行かれたのですか?」と大将。


「はい、ワシャ旅が趣味で中学の夏休みや冬休みに一人で各地巡りをしとって日本全国四十七都道府県は制覇したけぇ」と心平。


「凄いですね」と孝子。


「ワシ、古い建物を見て歩くのが趣味で寺社仏閣が好きで兄貴たちとも一緒に行く時もあったけぇ。大将、ごちそうさまじゃった。今日は楽しゅう食事ができた。ありがとの。お会計をお願いします」と言い席を立ち会計を済ませた。


 店を出ると孝子と翔平が、「社長! ご馳走様でした!」と言った。


「いえいえ、そう言やぁ、お二人は広電通勤じゃったよね?」訊くと、「はい」言ったので、「じゃったら、アパートまで送るけぇ」と心平が言った。


「いいえ、僕は広電で帰りますから、姉貴だけを送ってもらえないですかね?」と翔平。


「女性じゃけぇダメだよ」と心平。


「大丈夫ですよ。僕は誰にも言いませんから!」と翔平。


「あのさ、そがいな事を言われたら余計にダメだよ」と心平。


「社長、一生のお願いじゃ。姉貴だけを送ってつかぁさい!」と翔平。


「社長、そういう事ですから! 私も誰にも言いませんから!」と孝子が言った。


「じゃぁ、分かったよ」と言い、仕方なく心平は翔平を先に広電の駅まで送って行き、その後、孝子のアパートを目指して走っていると大きな運動公園が見えたところで「社長! ちょっと気持ち悪くなったので公園で少し涼んでも良いですか?」と孝子が言った。


 心平は公園の駐車場に車を停めて車から降りると孝子も降りた。


「社長! おんぶして下さい」と唐突に言った。


「うん、ええよ」と言って大男の心平がおんぶをすると「社長の背中、大きいです」と言った。


「そっか」


「私と翔平はお父さんの顔を知らないので、お父さんにおんぶもされた事ないし、抱き上げられた事もないので嬉しいです。私はファザコンだからかもしれないんですけど、社長は三十歳には見えなくて私たちよりもっと上に見えたので好きになったんだと思います」と言った。


「もしかして、あの大将と同様で、ワシの禿頭を見て、そう思ったんじゃないのか?」


 その時の心平の脳裏には(麗奈も父親とは仲が良くないから、こんなことしたことがなかったんだろうな)と浮かんだ。


「じゃったら抱っこして上げるよ」と心平が言って下ろして、お姫様抱っこすると、彼女は心平の首に自身の腕を回してキスをして笑ったので、心平は彼女を下ろして「コラッ!」と言うと「隙あり! 一本!」と言ってまたケラケラと笑った。


「社長! おんぶして下さい!」と言ってまた心平の背中に乗ったのでそのままおんぶして歩いた。


「社長の匂いが」と。


「汗臭いじゃろ?」


「いい匂いです」


 孝子をおんぶしたまま心平は公園の中に入って行くと芝生になっていて石に躓き彼は前に転がると彼女も心平の上に乗った。


「痛かったよね。ごめん」と言って孝子の顔を見ると彼女は目を瞑ったので心平は、立ち上がって「さぁ、帰ろうか!」と元気よく言った。


「本当に社長は真面目なんですね!」と少し怒った孝子。


「店を一緒に盛り上げてほしい」と心平はポツリと言った。


「分かりました」と孝子。


「じゃぁ、帰ろうか?」と心平。


「はい、社長」と言い心平は歩き出して車に乗り孝子のアパートに送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る