次は二匹目を

 「よしじゃー、次のゴブリンを使役?テイム?しに行くか。」

 「お、おう、なのじゃ…」


 魔王のノリが悪い。

 まぁでも、さっきの今でしょうがないことかもしれない。

 ただそれよりも、一つ気になることがあった。

 それは…


 俺はゴブリン…

 いや、一号に視線を向けながら…


 「なぁ、なんであいつ、敬礼してるんだ?」


 そう、一号が俺に向かって敬礼していた。


 「わ、分からないのじゃ…」

 「そ、そうか…。前もあったのか…?」

 

 「いや、なかったのじゃ…

 妾が生み出していた魔族の者たちへは、魔物たちは妾が命令を下さないと言うことを聞くこともなかったのじゃ…」


 そう、魔王が魔族を生み出していたらしい。

 だからこそ、俺たち勇者パーティが魔王を討ち倒すことで、魔王と一緒に他の魔族の奴らも消えて行ってしまったという話だ。


 本題に戻して…


 「そうか…。じゃー、なんでなんだろうな。」

 「むー、初めてのことで、妾には見当もつかないのじゃ…」

 

 本当に分からない。

 俺自身も、こう言う経験をしたことはないし…

 まぁでも…


 「別に問題として困るわけでないし、気にしなくてもいいか…」

 「そう、じゃな…。確かにそうなのじゃ。」

 「じゃー、次行くか。」

 「なのじゃ。」


 こうして、俺たちは次のゴブリンを探しに向かった。




 そして道中…


 「そう言えばなのじゃ。」

 「ん、どうした?」

 「お主は妾にゴブリンたちを集めさせて何をさせるつもりなのじゃ?」


 魔王からそんな問いが飛んできた。


 「あれ、言ってなかったけ?」

 「言ってなかったのじゃ。何一つ、聞かされてなかったのじゃ!」

 「そうだっけ…」

 「そうなのじゃ…」


 魔王は、困ったような顔を向けてきていた。

 

 「そっか…

 いや、家とかをさ、作ってみようかなーと思ってるんだよ。」


 「家!?家って造れるのじゃ!?」

 

 魔王は、目を大きく見開かせていた。

 

 「そりゃー、造れるだろ。」

 「へー、そうなのじゃ…」


 魔王は、家が造られるのもだと初めて知ったような反応だった。

 でもさ…


 「いやじゃー、魔王城はどうしたんだよ?初めからあったってわけでもないだろうし…」

 

 「あれは、配下が勝手に…

 でもそうなのじゃ。考えてみたらそうなのじゃ…

 きっと、配下が造ってくれたのじゃ。」


 「だろ?だから、ゴブリンを集め終えたら家を造ろうと思う。」

 「なるほどなのじゃ。」


 ゴブリンを探す道中、俺たちはこんな会話をしていた。



 

 そして少しして、今は二匹目のゴブリンを使役しようとしている際中だ。


 一号が標的のゴブリンを後ろから羽交い絞めにし、魔王がじりじりと二匹に近づいている。

 

 「一号、そのままじゃ。そのままでいるんじゃ!!」

 「ぐぎゃ。」


 魔王の言いつけに従って、一号はゴブリンを羽交い絞めを続ける。

 そして、そんな命令を下した魔王はじりじりと…

 いや、ビビりながらゴブリンに近づく。


 進む一歩はほんと小さく…

 さっきから、同じ足…

 左足しか前に出ていない。


 何故か、ずっと左手だけを前に伸ばしていて…

 腰はすごく引けている。


 どうやら一号をテイムしたときのことが、かなりトラウマになっているようだ。


 「ぐぎゃ、ぐぎゃーー!!」


 一号が何やら叫んでいる。

 

 ただ、本来はその言葉が俺に通じるはずがない。

 なのに、俺には通じてしまっていた。

 『早く、早くーーっ!!』と、言っているのが…


 今の光景を…

 魔王を見てると、なんだか辛かった。


 ゴブリンに怒られる魔王とはいったい…


 そして、もしかして魔王にも通じているのだろうか…

 

 「うるさい、うるさいのじゃ!!」

 「ぐぎゃーー!!」


 次は、『いいから早く!!』だろうか…

 ただ一号が声を張り上げた甲斐はあったらしく、魔王の進む速さがほんの少しだけ速くなった。

 

 そしてようやく、魔王がゴブリンへとちょこんとタッチした。


 「やったのじゃ、やったのじゃ!!」


 魔王が大喜びをし始めた。

 そして一号も羽交い絞めを止め、タッチされたゴブリンは大人しくしていた。

 どうやら、成功したみたいだ。

 

 まだ魔王は、一人で大喜びをしている。

 そしてそんな中、一号がこっちにやってきた。


 「ぐぎゃ…」


 『疲れた…』だろう。

 何故分かるのだろう。

 表情だろうか…?


 「お、おつかれ…」

 「ぐぎゃぎゃ…」


 『本当に疲れました…』か…?

 というか俺は、何をしているのだろう。


 「す、少し休むか…。い、一号もゆっくりしといてくれ。」


 俺が言葉を発した瞬間、ゴブリンは片膝をついた。

 それはまるで、主に向ける時のもので…


 「ぎゃ。ぎゃぎゃ。」


 『はっ。ありがとうございます。』か…?

 いや、お前の主は向こうなんだけどな…

 

 なんなんだろう、この現象…

 疲れているのだろうか…?


 そんなことを考えながら、俺は魔王の元へと向かった。


 

 「よし、お前は二号。いや、タマにするのじゃ!!」

 

 魔王が、またあほなことを言っている。

 だからだろうか…?

 一号が、変な行動をし始めたのも…


 「いや、二号でいいだろ…

 というか、タマは一号にもつけてたし…」


 「はっ…!!そうだったのじゃ…。ならお主は二号なのじゃ!!」

 「ぐぎゃ。」


 ということで、二匹目は二号と言う名前に決まったようだ。

 すごく安直だけど…


 そして、さっきの光景を見て一つ気になることがあった。


 「なぁ、魔王…」

 「なんじゃ?」


 魔王が不思議そうな顔を向けてくる。


 「お前さ、前回は、どうやって一匹目をテイムしたんだ?」

 

 いやさ、二匹目以降は分かるんだよ。

 さっきみたいにゴブリンに羽交い絞めとかさせてから、自分が近づくって…

 なら一匹目はどうしたんだろうって…

 一号も、俺が気絶させたからテイムできただけだし。

 

 「えっと、確かなのじゃ…」


 魔王は首をコテッと倒し、思い出し始めた。

 

 「確か、ゴブリンに馬乗りにされて…

 でも正面からじゃったから…、はっ!!」


 何かに気づいたようだ。


 「いや、違うのじゃ…。これは…」

 

 俺は、もう何も言いたくなくなってしまった。

 


 とりあえずは、二号が仲間になった。

 

 そして頼むから、この世界での俺の半生を返してくれ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る