第20話 災厄の魔物が復活して暴れ始めた件

□エルダーウィズ公爵邸 (クラム)

 

落ちていく……。


凄まじい音が響き渡り、慌てた部下からの報告を受けて庭に出ると、そこから崩れていく王城がよく見えた。

やっぱり来たな。


俺は何日か前に家に戻ってきて俺とエフィに嫌味や皮肉を言って帰って行ったロイドに"人物史"を使ってこの事態を先に把握していた。

< 封印の守護結界が破られ、古代の魔狼が復活する。封印の守護結界の魔道具は魔力切れ。魔石は王妃のお小遣いになり、2個だけ供給された魔石の加工もずさんなものだったため >

< 復活するのは魔狼。強大なモンスターで、過去にはドラゴンやグリフィンと戦い、それらを喰らい、災厄の魔物と言われるに至った。長年、意に反して封じ込められていたことで狂化状態で出てくるため、周囲にあるものは全て怖し、殺し、蹴散らす。その魔狼にやられてロイドは死ぬ >



こんな記述を見せられてどうしろと?

王妃にこらって言えばいいのかな?

それともロイドに危ないから逃げとけって言えばいいのかな?

そもそも管理が杜撰すぎるだろ?


残念なことにこれでロイドはさようなら。

悪いがお前が自分の意志で王城に行き、国王や王子の側についているんだから、俺は止めないぜ?

死んだ後になるが、嘆くなら自分の浅はかさを嘆け。そしてミトラ様に詫びろ。


せっかく生み、育てた子供がそんなことになるなんて、俺だったら嫌だ。

でも止められない。仮にここにミトラ様がいれば……いや、言ってもしょうがないな。

俺は謝る方法だけ考えておこう。


ロイドが俺を嫌っているのをミトラ様は知っている。

ロイドが浅はかに育ってしまったことをミトラ様は悔いている。

でも俺はどうしようもできない。


なにせ立場的にはライバルだ。

そこから外せば介入もできるし、客観的に見たらそうした方がいい。

でも、優柔不断な父さんはそれをしない。

もちろん俺からそんなことを提案することはできない。


そんなことをしたら、卑怯にも親に頼ってライバルを蹴散らした卑怯者だ。

父さんもミトラさんもそんなことは望んでいない。


ただ、エフィを助けることで、ロイドが死ぬ可能性は……その時点ではなかった。

結局、俺が魔石の供給を止めたことが遠因ではある。

それでもちゃんと魔石を投入していれば……お小遣いとして使い込まなければこんなことにはならなかったのだから、俺に責任はないな。



そうやって心に折り合いをつける。

俺だってもとからロイドを敵視していたわけではない。

兄として包容力を持って接しようと心掛けてはいた。


しかしあいつは俺の手を振り払った。

あろうことかエフィにすら辛く当たった。


自分から出て行って自滅するやつを助けてやるような殊勝な心掛けをするつもりはない。

残念だが、やはりロイドはさようならだな。




そこまで考えて気持ちを整理した後、俺は整えていた準備を持って、学院に向かう。

えっ?王城じゃないのかって? ないない。もうあそこはダメだ。今さら俺が行ってもなにもできない。

俺は学院に行って、ヴェルト教授とエフィと一緒に魔狼を迎え撃つんだ。



□崩れゆく王城にて (国王)


気が遠くなっていく。



……はっ。どうなった!?

どうなったのじゃ!?!?


余は起き上がろうとするが動けない。

天井が崩れたのじゃろうか?


誰か、誰かおらぬのか?


騎士団長、王妃、大臣、ギード王子、オルフェ、ロイド……誰も反応しない。

名前を呼んでも誰も……



ぞわっと嫌な雰囲気を感じる。

余はさっき何を持った?

近くにいたものを掴んでそのものに隠れるようにしゃがみこんだはず……


暗い中でよく見えないが、余の腕は何かを掴んでいるようだ……。




柔らかみのある……腕か……


しかし体は見えない。


腕だけ……


「うわぁあぁぁあああぁあああ」

咄嗟に手放した。


気持ち悪い……。


誰のものかわからんが……。


そしていまだに動けないが……。




なぜこんなことになった。

なぜ……。


バカどものせいだ。


王がケチだと?

だからと言って魔石を使い込み、結局死んでどうするのだ?


婚約破棄だと?

こんなことなら許可するのではなく、謝罪させて仲を取り持つべきだった。

ギード王子と大臣が前向きに進めるからこんなことになった。


オルフェなど、ただの売女だぞ?

そんなもののために、王城は破壊され、余は死ぬのか。


エルダーウィズ公爵家も何をやっておるのじゃ?

復讐なのか、反逆なのか、ちょっとした抵抗なのか知らぬが、それで王都が破壊されたらどう申し開きをするのじゃ?

貴様らのちっぽけな考えが王国を滅ぼすのじゃ……。



許せん。

許せん。

許せんぞ……。



なぜ国のことを考え、安定して治めてきた余がこのような最期を迎えなくてはならない。

そんなことがあってよいのか?


いや、ならぬ。

道理に合わぬじゃろうが!


素晴らしき余には素晴らしき老後と幸せな最期を用意すべきじゃろうが!


それをなんじゃ!


こんな暗く冷たいところでわけもわからずに潰されて殺すのか!?


そんなこと、許せるわけがないじゃろうが!


神よ!

見ているのなら余を救うのじゃ。


バカ者どものせいで不幸に陥っている余を……。


はやく……

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