第35話 【はいしん】湿地エリア
カエデちゃんがソロで20層のボスであるトロールまで倒した後、俺たちはセーフエリアである21階層で休憩していた。
カエデちゃんの気持ちも収まったのか、今は元料理人志望の視聴者に作り方を教えてもらったサンドイッチを3人でモグモグ食べていた。
サンドイッチは、小腹を満たすのに丁度よく、おやつ替わりになった。
『視聴者さんに教えてもらったサンドイッチって料理も美味しいわね~。小腹を満たしてくれるわ~。カエデも怒りを鎮めてくれてよかった。』
:美味しそうに食べて頂けて良かったです!
:料理ニキいい仕事するね~。
:いや~、カエデちゃんが怒ったときはどうしようかと思ったで。
「あ、あれは本当に起こ怒っていた訳ではなくて、なんというか…。」
:恥ずかしかったんでしょ~w
:でも、カエデちゃんの攻略スピードハンパなかったわ。
:たしかに。トロールまで一撃とは思わんかった。
:最近までソロで探索してただけのことはあるな。
「俺達も揶揄って悪かったな。」
『ごめんなさいね、カエデ。つい…。』
「も~。本気では怒っていませんよ~。」
:これでカエデちゃんの件は解決やね。
:よかった、よかった。
:ちょうどいい時間にセーフエリアにたどり着けたしな。
「ちょうどいい時間?そういえば、今何時くらいなんだっけ?」
「え~っとですね。今の時間は…」
:おやつの時間です。
:3時くらいやで。
:午後3時6分です!
:それにしても、この配信って思っているより視聴者が少ないよな。
:それな。
:今の時間的にまだ社会人とか部活生が見れないんじゃないか?あと、いつも言ってるけど、配信を始めてからの日数も関係してると思う。
「15時か…。皆ありがとう。あまり考えてはいなかったが、時間帯で視聴者数が変わるのか…。それじゃあ、食べ終わったら、もう少し進んでみようか。2人とも、それでいいか?」
『大丈夫よ。エネルギー補給完了でまだまだ動けるわよ!』
「私も全然大丈夫です!」
「それじゃあ、食器を片付けてから22階層に突入だ!」
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軽食を食べ終えた俺たちは、湿地帯エリアを歩いていた。
このエリアは21階層~30層で構成されており、主にリザードマンなどのモンスターが出現する。
リザードマンは、ゴブリンやコボルトと比べて力が強い上に、基本的に全個体が武器を所持している。
湿地の中を移動してくるので、足音でリザードマンたちの居場所が分かるのは良いのだが、探索者側は居場所をバレたくなければゆっくりと進んでいく必要がある。
—バシャ!バシャ!
しかし、現在俺たちは自分の足音を気にすることなく進んでいた。これは、俺たちのいつ力であればリザードマン程度であれば問題ないと考え、先に進むことを優先した結果だ。
ちなみに、靴はどうしているのかというと、探索前の準備の際に探索用具店で購入しておいた動きやすいレインブーツというものを履いていた。
「うーん。湿地エリアでこんなに足音を鳴らすのって慣れないです~。」
:普通はゆっくり進むんだけどな。
:バッシャ、バシャ進んでて草
:普通はゆっくり進むん?
:そりゃ、音でモンスターにバレるからな。できれば戦闘は避けたいじゃん。
:リザードマンって、体が鱗に覆われてるから、こっちの攻撃が通り辛いんよ。
:そのくせ武器まで持ってるから苦戦するんだよな。
:へー。
:詳しい視聴者が多いな。
:でも、さっきからの戦闘を見てる限り、この3人にはリザードマンも敵じゃなさそうだけどな。
「私も普段は音を立てないように気を付けているんですけどね。」
「すまないな、カエデちゃん。ま、今回は3人いるし、まだまだ肩慣らしをしたいから許してくれ。」
「いいですよ。あっ、それよりもなんだかあそこだけ他と雰囲気が違いませんか?」
カエデちゃんがさし示した方向を見ると、確かに一部だけ土が盛り上がって円を描くような形の地形が出来上がっていた。
「確かに…。というか、あれって土俵じゃないか?相撲をとったりする…。」
「そう言われてみれば、土俵に見えますね。でも、何でこんなところに?」
『ドヒョー?』
:本当だ。
:何で土俵?
:ここって何階層だっけ?
:地図ニキいてる?
:23階層ですね。
:おっ、いてたか。
:湿地エリアと言えば、掲示板でカッパと戦ったって言ってるヤツいなかったっけ?
:何それ?
:それ知ってる。
:結構最近の話だよな。
:確か23階層って言ってたぞ。
「カッパだって?カエデちゃんの時もそうだが、和風モンスターが増えてきているのか?いったいダンジョンに何が起こって…。」
コメントの内容について考えていると、ルーシーがモンスターの接近を知らせてくれた。
『2人とも。リザードマンが来たわよ。』
ルーシーが示した方向を見ると、右手に剣と左手に盾を持った9匹のリザードマンがこちらに迫って来ていた。
「まかせろ!」
—パシャ、パシャ、パシャ
大和が水面を駆けていく。
:リザードマンの数多くね?
:えー!これダークエルフちゃん大丈夫か?
:『1人で大丈夫なのか?』
:さっきからこんな感じだぞ。
大和がスキル【マッサージ】の《ツボ可視化》を発動すると、目が紅くなりリザードマンや盾や武器の弱点のツボが顕わになった。
大和であれば盾ごとリザードマンを切り伏せることも可能ではあるが、体を慣らすという目的のために、この戦闘では力業を使わないことに決めた。
リザードマン達に真正面から迫り、注目を集めた大和は刀で切りかかるようなフェイント動作を行った。
—シュタッ
そこで大和は高速でリザードマン達の頭上を飛び越え、集団の後ろにいたリザードマン3匹の無防備な背中を切りつけ、胴と下半身を真っ二つにした。
—グワアア!
:相変わらずのスピードと切れ味。
:カエデちゃんばっかりグロイって言われてるけど、こっちも相当のもんだぞw
:大和ちゃんは切れ味が美しいのでオッケーです。
:オッケーなのか…。
:リザードマン3匹を一振りで!?
後ろの仲間が倒された事に気づいたリザードマン達は、大和の方を振り向こうとする。
しかし、大和はリザードマン達の右側に回り込み、盾を持っていない方向から刀の2振りで3匹の首を撥ね飛ばす。
:残り3匹!
:ないすー!
:盾も構えさせてもらえないリザードマンくん…。
:普通は鱗のせいでこんなにスパスパ切れないんだが…。
「はっ!」
仲間の首が狙われたのを見たリザードマンは、無意識に首を守るように盾を上側で構えた。
「足ががら空きだな!ふっ!」
しかし、今度は守られていない足を切り飛ばされ、リザードマン達は3匹とも自分の体を支えきれず倒れてしまった。
—グガアアアア!
なんとか上体を起こそうとするが、大和はそれを許さず、それぞれに止めを刺した。
—グサッ
「これで終わりだな。」
スキルを解除し、紅く光っていた目の色が、元の金色に戻った。
:ダークエルフちゃん強すぎw
:リザードマン9匹が一瞬で…。
:まだまだ余裕そうだな。
:戦闘中だけ目が紅くなってたから、何かのスキル?
:知ってる中で目が紅くなるスキルは無いな。
:目が紫とか緑色になるスキルなら知ってるが…。
:大和ちゃんカッコいい。
:おい、あっちの方から何か近づいてきてないか?
:本当だ。
『お疲れ様、ヤマト。戦闘終わりに早速だけど、コメントで言われてるように、また別のモンスターが近づいてきてるわね。あっちよ。』
「ああ。気づいてるよ。」
「あれってもしかして、中層ボスのクロコダイル・ファイターじゃないですか?」
カエデが指し示した方向を見ると、50mほど先に巨大な2足歩行のモンスターが見えた。
よく目を凝らすと、その見た目は身長4mほどの2足歩行の筋肉質なワニの様だった。
また、武器として両手持ちのハンマーを軽々と持ち運んでおり、その腕力の強さが見て取れる。
:めっちゃ強そう…。
:ダンジョンってこんなやつとも戦うのか…。
:クロコダイル・ファイターって湿地エリアの中層ボスだったよな。25階層に居るはずじゃ…。
:今は23階層です。
:地図ニキ助かる。じゃなくって、なんでこんなところに?
:足音バシャバシャ鳴らしてたからじゃね?
:いくら足音が大きくても2階層先までは届かないと思うんだが…。
:中層ボスは稀に階層を超えてくることはある。
:でもそれって、かなり珍しい事だよな。
「こんなモンスターも居たな。そういえば、カエデちゃんはソロでも倒せるんだよな。」
「はい。大和さん達と初めて出会ったのはもっと先の階層だったので、そこまでは大丈夫です。」
「そうか。それじゃあ、まだ余裕があるうちに3人で連携して戦い始めておこうか
。ルーシーもいいか?」
「分かりました!」
『もちろん大丈夫。またソロで倒してしまわないように、手加減しなきゃね。』
:手加減って…。
:ルーシーちゃん頑張れ!
:ついに3人での戦闘ですか。
:大丈夫かな…。
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あとがき
スキル【マッサージ】の《ツボ可視化》を使用中は眼の色が紅くなるという設定を追加させて頂きました。
世界初のダンジョン配信者 目覚めたらダークエルフの美女にTSしていた件 手に入れたスキル【はいしん】はチートでした コペルニあん @koperunian
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