第29話 大阪への帰還


 東京駅周辺での【はいしん】を終えた俺たちは、東京を去り大阪に戻って来ていた。


 そして、ダンジョン周辺街で前回と同じ宿に宿泊することにした。



 『はーっ、疲れた~。少し横になりたいわ~。』


 「私もです~。」


 ルーシーとカエデは、ベッドに仰向けになっていた。


 「おいおい、そんなんじゃダンジョンで何日も探索できないぞ?」


 「まあ、ダンジョンと地上は別腹というか…。」


 『カエデの言ってること分かる~。それよりも、ヤマトは何でそんなに元気なのよ!』


 全く疲れた様子を見せない大和に対して指をさしながらルーシーはそう言った。



 「あ、忘れてた。俺のもう1つの特殊スキルって【マッサージ】だろ? こうやって無意識に自分の肩とか腰を触ると、疲れを癒してくれるんだ。このスキルのお陰でダンジョンではあんまり疲れなかったんだよな~。」


 「自分にだけマッサージしてズルいです!私達の疲れも癒してくださいよ!」


 『そうよ、そうよ!私は全身が痛いから、しっかりマッサージしてよね!』


 カエデとルーシーは仰向けのまま自分をマッサージするように要求した。


 「まあ、自分だけマッサージするのもズルいよな。でも、俺って元男だけど触れても大丈夫か?」


 『今更何言ってんのよ。その見た目で男ですって言われても誰も信じないわ。それに…。』


 「そうです、そうです!こんな綺麗な男がどこに居ますか!それに、この前強くなれるなら男に戻れなくても大丈夫って言ってましたよね。」


 「まあ、そうなんだが…。それじゃあ、2人同時にマッサージさせてもらいますか!」


 《マッサージハンド》発動!


 大和が声を出した途端、【マッサージ】の能力の1つである《マッサージハンド》が発動し、大和の体から魔力で生成された腕が4本生えてきた。


 そして、その2本の魔力の腕はカエデに伸びていきマッサージを始め、残りの2本は大和の背中を揉み始めた。



 「それじゃあ、ルーシーの方は俺が直接マッサージしようかな。」


 —モミモミ!


 「あああああ。きもちよすぎるうううう。ずっとこのままでおねがいしますううううう。」


 『すごいきもぢいいいい。って、やっぱり大和も疲れていたのね。自分の背中も揉んでるじゃないの。』


 「そりゃそうだ、この能力は自分の背中をマッサージしたいなと思ってた時に手に入れたんだからな。」


 「これならダンジョンでも全然疲れませんね。1パーティーに1大和さん必要ですよ!やっぱり大和さんとパーティー組んでよかった!」


 『これなら一生潜っていられるわね。』


 「ははっ、2人とも大袈裟だな。って言いたいが、俺もこのスキルのお陰で20年近くもダンジョンに潜れたんだと思うよ。それじゃあ、2人の疲れが完全に取れるまで

やるぞ!」


 「はいいいい。おねがいしますうううう。」


 『一生このままでいいわああああ。あっ、やっぱり晩御飯食べるまでにして頂戴いいいいい。』




————————————————————————————————————————————————————



 マッサージを終えた俺たちは、宿の食堂の端の席で晩御飯を食べていた。



 「ふー、疲れが吹っ飛びました~。」


 『そうね。今ならいくらでもカレーを食べられるわ!』


 「おいおい、どれだけカレーを食べるつもりなんだ…。」


 「ルーシーちゃんって本当にカレーが好きですよね~。」


 東京での昼食に続き、カレーを食べているルーシーを見て不思議そうにカエデと大和はそう言った。


 『この前も言ったかもしれないけど、私の国にはこんなに香辛料を使った料理ってなかったのよ!』


 「そういえば、そんなことも言ってましたね。それにしても異世界ってどんなところなんでしょうか?」


 『うーん、ここと比べるとやっぱり種族の多さかな…。』


 「エルフだけじゃなくて、ドワーフや獣人もいるんでしたっけ!」


 『そうよ。それだけじゃなくて魔人や妖精なんかも…。あ、そうだ!私の国にはこの電気製品なんかは無かったわね。』


 「それじゃあ、夜はろうそくとかで明かりを灯していたのか?」


 『そんなことないわよ。私の国には電気の代わりに魔力を利用した道具で照らしていたわ。』


 「え!? それって一般的な家庭にも普及していたんですか?」


 『もちろんよ。そういえば、この世界では魔道具を見かけないわね。こっちの人達も魔法を使えるし、魔石がドロップするんだから燃料は問題ないと思うんだけど…。』


 「そりゃそうですよ。今のところ魔道具はダンジョンで手に入れた物しか地球上には出回っていませんからね。」


 『えっ、それじゃあこの世界では魔道具を作っている人は居ないの?』


 「そうですね。まだ構造が解明されていませんから誰も作れないですね。」


 『そういう事だったのね。私の国では魔道具を作る職人が居たのよ。だから魔道具のエネルギーとして使える魔石は魔力の少ない種族にはとても人気だったの。』


 「そうなのか。魔石が供給過多になっている地球とは大違いだな。」


 『そうよ。だから冒険者にとっては魔石はとっても大切な資金源だったの。そういえば、この国では冒険者は何を売ってお金を稼いでいるの?』


 「それはですね。主な資金源は魔物の素材ですね。他にもミスリルなどの魔鉱石やスキルオーブなんかも売れますね。後は、等級の高いポーションならオークションに出せば高額で落札されますよ。なんてったって、ヒールポーションには若返り効果がありますし、キュアポーションなら等級によっては癌も治るらしいですから富裕層の需要がすごいらしいです。でも、探索者にとってもポーションは生命線ですから、等級の高いポーションはなかなか出回りません。」


 「そうだな。俺も出来ればポーションは売りたくない。」


 『へー。そうなんだ…。』


 そうやって話していると、大和が思い出したように声を上げた。



 「あっ、そういえば明日の予定を話し合っておきたかったんだ。」


 「そうですね。私は装備屋さんに行って、強化した剣を受け取らないといけません。大和さんはどうですか?」


 「そうだな。俺はカレー粉や調味料、あとは食器を買い足しておきたい。ルーシーはどうだ?」


 『私は特に無いかな。』


 「それじゃあ、明日は朝一番にカエデちゃんの剣を受け取りに行こう!」

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