第28話 東京での突発【はいしん】


 次の日の朝、俺たちはカエデちゃんの家で朝食を頂き、東京駅に向けて出発しようと、玄関の前に立っていた。


 「この度は、2人も泊めさせていただいてありがとうございました。」


 『ありがとうございました。』


 「いいのよ。大和さん、ルーシーちゃん。またいつでも来て頂戴ね。カエデも、年末はいつも通り帰ってくるのよ。」


 「分かってるよ、お母さん。それじゃあ、そろそろ行くね。」


 「いってらっしゃい。また何かあれば、いつでも連絡してきなさい。」


 「分かった。いってきます。じゃあね~。」


 そうして、俺達3人はカエデちゃんの実家をあとにした。




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 現在俺たちは、新幹線に乗るために東京駅周辺にいた。大阪のダンジョンに行く前にルーシーが最後に何か食べたいというので、お昼には少し早いが昼食を探しながら辺りを散策していた。


 「そういえば、たまに自分にカメラを向けて喋りながら歩いている人を見かけるが、あれは何をしているんだ?」


 「あー、あれは配信をしているんですよ。街や美味しいレストランなんかを紹介しながら配信している人が多いと思います。」


 「なるほど。この前のルーシーの食事を【はいしん】したような物か。」


 「そうなんです。そこで、大阪でも話したように東京の街を歩きながら【はいしん】の練習をしてみませんか?どんどん【はいしん】を使っていけば、スキルの練度upだけじゃなくて、視聴者を増やして収益化への近道にもなりますよ。」


 「そうだな。安全な地上で出来るだけ試しておこうか。それと言い忘れていたんだが、このスキルを使っていると身体能力や魔力が総合的に上がっている気がするんだ。だからルーシーも出来るだけ使うようにしておいてくれ。」


 『えっ⁉そんな効果があったの?』


 「そうだ。それにしても、このスキルはお前の方が先に持っていたんだぞ。なんでこんなにも知らないことだらけなのか、いつか話してもらうぞ。」


 『そ、それは、私たちの世界にはDチューブなんかなかったから…。』


 「まあ、それはそうなんだが、使う事の出来ないスキルを授かることなんてあるのかと思ってな…。」


 「大和さん。アニメとか漫画の世界ならそういう設定もありそうですけどね。《地球では役に立たないスキルだったけど、異世界に来たらチート能力だと判明して夢のハーレムを作れた件》ってタイトルとか。」


 「なんだその長いタイトルは?そんな漫画やアニメが在ってたまるか。」


 「えーっ、こういうのが最近の流行なんですよ~。ほら、これ見てください。」


 「どれどれ?」『んー?』


 ルーシーと一緒にカエデのスマホをのぞき込むと、そこには100文字くらいのタイトルの漫画が表示されていた。ちなみに購入済みと書かれていた。


 「なんてことだ…。俺が地上にいない間に本当にいろんなことが変わったんだな。」


 『すごく長いわね。』


 「そうなんです。まあ、漫画の話はここまでにしておいて、そろそろ配信を始めましょう。今回は、大和さんだけじゃなくてルーシーちゃんも同時に行いましょう。」


 『そういえば、同時に使うとどうなるのかしら?』


 「ま、使ってみればわかるだろう。」


 『それもそうね。じゃあ、早速始めましょうか』

 

 「それじゃあ、私はパーティーのSNSで宣伝しておきますね。」


 「分かった。それじゃあ始めるぞ。せーのっ。」



 【はいしん】【はいしん】



 『どうかしら?』


 「ちょっと待ってくれ。え~っと、俺の配信はこれか…。なるほど、同じ配信に俺とルーシーの2人の画面が映っている。」


 『私にも見せてよ。 本当だわ。もしかすると、もともと私のスキルだったから、こんな感じになってるのかしら?』


 「うーん。スキルは不思議なことが多いからな。とりあえず、このまま進めていこう。」


 『そうね。考えても仕方ないわ。そういえば、まだ左上の数字が2しかないわ。これって、1人しか見てないってことよね。』


 「そうですよ、ルーシーちゃん。まだ大和さんと私しか見てませんから。でも、SNSに上げといたので、すぐに視聴者も増えてくるはずです。それまでは普通に昼食でも探しましょう。」


 『そうね。じゃあ、昼食探しに行きましょう!』




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 



 『うーん。美味しそうな食べ物がたくさんあって、悩むわね…。』

 

 俺たちは【はいしん】を発動しながら、しばらくお店を探していた。

 

 ルーシーが熱心に食べ物を探す様子はとても可愛らしく、周りの人々の注目を集めていた。しかし、まだ一般の人々にはエルフの存在が浸透していないことと、コスプレと勘違いされたのか、騒ぎになるようなことは無かった。

 

 『あっ、あれは何かしら?』

 

 ルーシーが示した方向を見ると、数人の列が出来ているとんかつ屋さんがあった。

 

 「ああ。あれは、とんかつだな。」

 

 『トンカツ?』


 「そうだ。豚の肉に衣をつけて揚げた料理だな。すごくおいしいぞ。」


 『豚肉…。揚げる…。唐揚げに似た料理かしら。1度食べてみたいわ。』


 「それじゃあ、列も短いですし、並びましょう。」


 「そうだな。それにしても久しぶりのトンカツだな。」


 「あっ、ここのお店カツ丼もあるみたいですよ。」


 「丼ぶりもいいな…。あっ、視聴者がさっきよりも増えてるぞ。チャットも来てる。」


 『あっ、本当ね。意識するとチャットを見ないことも出来るのね。』



 :あっ、やっと気づいてくれた

 :今回は2画面か

 :2画面の方が色んな視点からルーシーちゃんとヤマトちゃんが見れていいな。

 :どこのとんかつ屋さんですか?

 :エルフがトンカツ?ギャップが凄いな。


 「皆さんこんにちは~。」


 :カエデちゃーん

 :やっほー

 :こんにちは~

 :SNSからきたで。


 「えーっと、今日は地上での練習配信でお送りしてま~す。SNSにもURL上げているので、よかったら拡散お願いしまーす!」


 :了解~

 :おっけー

 :SNSやってるん?

 :お昼ご飯配信ですか?


 「それじゃあ、ルーシーちゃんと大和さんも出来ればコメントに答えてみてください。」


 『えーっと、そうね。今日は東京で配信しているわ。これからトンカツを食べるところなの。初めてだからすごく楽しみ。』


 :大阪じゃないんだ。

 :えっ、東京?やっと大阪にたどりついたんだが…。

 :↑運が悪かったな…。

 :やったー!東京なら見れるかも!

 

 「あとは、2画面についてだな。今回はルーシーと一緒に【はいしん】のスキルを使ったからこんな風になっているんだ。しばらくはこの形式でやっていこうと思っている。」


 :2画面の方がいいかも

 :大和ちゃんとルーシーちゃん両方とも見やすいからオッケーです。

 :大和お姉さま~!

 

 「お、おねえさま?」


 「大和さんは女性ファンも多いですからね。背も高くてカッコいい系だから女性からもモテますよ。」


 「そ、そうなのか。まあ、カッコいいと言われる方がいいかもしれないな。」


 :可愛いって言われると恥ずかしいタイプか。

 :まあ、そこが可愛いくもあり、カッコよくもあるんだが…。

 :なんで東京に来てるんですか?

 :次のダンジョン配信はいつですか?


 『次にダンジョンに潜るのは、大阪に帰ってからね。今日はとんかつを食べてから大阪ダンジョンの周辺街に戻つもりよ。』



 しばらくコメントの質問に答えていると、俺たちの順番がやってきた。


 「順番が来ましたよ。中に入りましょう。」


 配信を続けながら、俺たちは店内に入り、メニューを眺めていた。


 「それじゃあ、私はカツ丼にしようかな。カエデちゃんは?」


 「それじゃあ、私はこのかつ定食にしようと思います。」


 『んー。私は…。あっ、これにするわ。私の大好きなカレーとトンカツが一緒になってる料理!』


 隣を見るとルーシーは、メニューの中のカツカレーを指さしていた。


 :ルーシーちゃんカレー好きなんだ。

 :カツカレーいいね。

 :もしかして、初カツカレー?

 :今時人生で初めてカツカレー食べる人の映像って珍しいなw

 

 「カレー好きなら絶対気に入ると思うぞ。それじゃあ、注文するか。」




――――――――――――――――



 そして、全員分の注文を完了し、しばらくコメントを見ながら待っていた。


 :大和さんの髪って後ろでまとめた方が邪魔にならないと思います。

 :ショートにするのはダメ!

 :せっかく綺麗な髪だから残しておいてほしいな。


 「ほら、視聴者の皆さんも私と同じ意見ですよ。帰りに髪留めを買いますので、絶対に切らないでくださいね!」


 「そ、そうだな。切らない方向で行くよ。」


 :そうそう!

 :わー、これって本物の映像なんですか?

 :↑本物のエルフやで。

 :地球で唯一ダンジョンギルドから公式に認められたエルフです。

 :まだまだ、探索者以外の認知度は低いんだな。

 :一応、ニュースにもなってたけどね。



 『私も切らない方がいいと思うわ。 あっ、私のカツカレーがやってきたわ!』


 :ルーシーちゃんの目が輝いとるw

 :デカくね?

 :そういえば、特盛で頼んでたな。

 :あの体形で特盛w

 :食べきれるのか?


 「よし、これで全員のメニューが揃ったな。それじゃあ、いただきます。」


 「いただきます。」『いただきます。』


 そうして、3人は自分の料理を食べ始めた。


 (久しぶりのトンカツは美味いな。しかし、それよりもルーシーのカレーもいい匂いだ。次のダンジョンにはカレー粉は絶対にもっていかないといけないな。しかし、アイテムボックスの容量のため仕方ないとは言え、モンスターの肉をもっと取っておけばよかったな。)


 「久し振りのトンカツは美味しいですね。」


 「そうだな、次のダンジョン探索の際はトンカツも作れるように材料を買っておきたいな。」


 「そうですね。でも、アイテムボックスの容量的にあんまり持っていけないんですよね~。」


 「そこが問題なんだよな。短期間の探索なら調味料も足りると思うんだが…。」


 カエデちゃんと次の探索について話し合っていると、隣のルーシーが俺の肩をつついてきた。


 「ん、どうしたんだ?ルーシー?」


 『カレー、お代わりしてもいい?』


 「んん!? 食べ終わるのが速すぎないか!?」


 :一瞬で消えて草

 :カレーはどこいった!?

 :ルーシーちゃん爆速で食ってて草

 :あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! ルーシーちゃんが味見をして笑顔になって微笑ましいなと思ったら、いつの間にかカレーが一瞬で無くなっていたんだ…。

 :○ービーみたいに吸い込まれたぞ!?

 :よっぽど美味かったんやろかw


 「そうか、美味しいなら仕方ないか…。あと1皿だけだぞ。」


 『うん!分かった!』


 :めっちゃウキウキで草

 :そういえば、まだ収益化してなかったんだっけ?

 :スパチャ投げられないな。


 「あ、そうなんですよ。まだ収益化は出来てません。スパチャも出来ない状態ですね。」


 :ま、可愛いエルフってだけでもバズる要素しか見当たらないから、次のダンジョン配信で収益化まで行けるでしょ。

 :早くダンジョン配信見たいな~。

 :アーカイブ見たけど、再生回数ヤバかったから、だんっジョン配信見たい人はいっぱいいると思うよ。

 :私も応援してます!


 「応援ありがとうございます!」


 「この前のダンジョン配信は、スキルの効果をよく分からずにやってたから、次は気合を入れてやっていこう。」


 「はい!早く食べて大阪ダンジョンに戻りましょう!」


 

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