穏やかで悲しい午後

大満足の昼食を終えて、腹ごなしにランニングをしながら森の深いところを抜けていく。


狩りは午前中で終了になった。

ガインがギルドから依頼されている案件も済んでいるので、適当なところでミヤの魔力循環の訓練をしようと言う話になった。


今現在、ミヤは魔力循環を維持しながら身体強化をして走っている。

予定よりも早いペースでスキルを使いこなせるようになっているし、魔力循環も上達している。


「思ってたよりじょーたつ早いでしゅ」

「そりゃあれだろ、実践形式で鍛えてるんだから伸びがいいんだ」

「魔力循環もそうだね。午前中に魔力が一気に抜けたから動かしやすくなったせいだろうね」


実践、実戦の経験が一番の近道なのだと二人は言う。

ミヤも確かにそうだなと思う。

見たり聞いたりしただけじゃ、きっと理解できなかったし、身体も動かせなかったはずだ。

何しろミヤが身体を動かせるのが十数年ぶりなのだ。

こうして走ったり、狩りをしたり、料理を楽しむことをこれから先も続けたい。


「けんこーな身体のために訓練がんばりましゅ!」


ミヤの声にフェンリルとガインは優しい笑みを浮かべている。






「それじゃ、俺は一旦街に戻る」

「あぁ、私たちはこの辺りに居ると思うが、離れてもガインなら見つけられるね?」

「アンタが態と足跡残してるのは気付いてたが、まぁ無くても問題ない」

「ふふっ」


(ほ~~~、全然気付かなかった。フェンリル様ガインさんのためにわざと足跡残して移動してたんだ)


そう言えば、ゴブリンが出た時にガインと出会ったあの場所を移動したんだっけとミヤは思い出した。

ガインはその場に残っていたフェンリルの足跡を辿って追いかけて来たのだ。


「分かってると思うが、森の東側、街の方には近寄るなよ。デカイ狼型の野獣が出たと騒ぎになって冒険者どもが押し寄せるぞ」

「あぁ、気をつけるよ」

「それじゃぁ行ってくる」

「いってらっしゃーい! 味噌としょーゆ、あったら買ってきてくだしゃーい」


街に戻るガインに、市場で味噌と醤油と言う調味料が売っていたら買ってきてほしいと頼んでおいた。

欲を言えば、お酢や料理酒、みりんも欲しいのだが、ガインはそれらの調味料を知らないし聞いた事がないと言う。


ミヤも地球の日本と言う国の調味料だし無くても当然と思ったので、まずは日本食の調味料の代表格を探してもらうことにした。


「街にあるといいね、ミソとショーユ」

「あい! あったら美味しいものたくさんちゅくれましゅ。フェンリルしゃまとガインしゃんに日本食食べてもらいたいれす!」

「あぁ、なるほど。ミソとショーユは地球の調味料なんだね?」

「あい。ちゅくろーと思えば多分ちゅくれましゅが、出来上がりまでしゅごく時間がかかりましゅ。だから売ってたらいいなぁって」


そんな話をしながら、フェンリルとミヤは薪拾いに勤しむ。

薪を拾いながらミヤは身体強化と魔力循環の訓練を続けている。


午前中に失ってしまった魔力はかなり戻っている。だがまだまだ少ない。

ミヤは常に体中に魔力がパンパンに詰まっているのがデフォルトになるので、今身体強化を解いてしまうと貧血のような症状が出るだろうと言う。おそらく肺も正常に膨らまないのでまだ解くのは危険だ。


身体を動かしながらの訓練。薪を求めてあっちへこっちへ、フェンリルとミヤは森を動き回る。


「今日はこの辺りで休もうか」


と、麻袋3つ分に薪になりそうな枯れ木や枝、枯れ草を詰め、フェンリルの体高ほどある大きな岩のある場所に辿り着いた。


「あ! 地図。ガインさんに買ってもらおーと思ってしゅっかり忘れてました」

「地図か、そういえばミヤはこの世界の地形を知らないままだったね」

「そうなんでしゅ」

「そうか。そういえば私も今の世界の地図は持っていないね。古代の物ならあるんだが」

「古代の地図があるでしゅか?」

「あぁ、それなら持っているよ」


と、フェンリルがアイテムボックスから地図を取り出した。


「わぁ…!」


地面に広げられた地図は木製で、畳半畳ほどの大きさだ。

世界崩壊以前の大陸が描かれている。


地図には大きな大陸が3つあり、大、小、中の大きさで左から並び、中央の小さな大陸は北に寄り、右の中くらいの大陸は南に寄っている。


「左にある大陸が今居る『ピディシュミ』と言う大陸だよ」

「ほ~~。周りに小しゃな島がたくしゃんありましゅね」

「あぁ、そのほとんどがエヒトワの外に飛ばされてしまってね。この辺りの小島には魚人族も居たんだがみな島と一緒にリューエデュン空間へ飛ばされてしまった」

「そうなんでしゅね……」

「右の大陸にはーー」


天界では時間がなくて聞けなかった、古代のエヒトワに居た種族の話を聞いた。


元々エヒトワには多種多様の種族が暮らしていた。

種族間の争いごとは然程多くなく、世界全体で見れば何処も平和で穏やかだったそうだ。


陸には多くの『人族』がおり、

・人間

・獣人

・ドワーフ

・エルフ

・小人

・巨人

・魔人

・鬼人

の順で人間が最も種族人口が多く、鬼人族が一番少なかった。

この内、今残っているのは人間、獣人、ドワーフ、エルフのみ。元々の種族人口が少なかった種族は世界崩壊後に絶滅してしまった。


海には魚人という人族が居たが、先の話の通り魚人も絶滅してしまっている。こちらも種族人口は巨人族と同じくらいだったそうで、人間に比べると元々の数がはるかに少なかったそうだ。


「魚人もそうだが、小人、巨人、魔人、鬼人は魔力が少なくなったエヒトワでは長く生きられなくなってしまってね。彼らは元々長寿の種族だったが、長寿故に子どもが出来にくい種族で、新しく生まれてくる世代のほとんどが魔力量の少ない短命な子たちだったんだ」


そのため、世代を繋ぐことが出来ずに絶滅してしまったとフェンリルは悲しげに呟いた。


「……フェンリルしゃまの種族も長命でしゅか?」

「あぁ、その通りだよ。魔力が多い種族は寿命が長いが、子どもは出来にくい。けれどこれが自然の摂理だとリューエデュン神様は仰ているよ」

「あい、なんとなく分かりましゅ。強しゃに特化した種は進化の過程で安定したかんきょー(環境)を手にしてしまいましゅ。そのかんきょーに依存してしまえば、繁殖力がてーかしゅる(低下する)可能せーがあると聞いた事がありましゅ」

「……そうだね。私たちの種は魔力と言う強さを持っていた。小人たちも同じだった。種族人口が少ないほど魔力が高かった」

「しぇかい崩壊が起こるなんて、誰も予想できなかった事でしゅが……。やるしぇないでしゅ……」

「あぁ、本当に…そうだね……」


ぴぴぴ、チチチと、森の中には鳥の声が響いてる。

彼らは世界崩壊を生き延びた種族なのだろう。こうして生き残った種族も居れば、消えてしまった種族も居る。


神界に昇った事で、仲間が絶滅してしまっても残る事が出来ていたフェンリル。

そんな彼が野獣として地上に戻った事で、ひとりぼっちになってしまっている現実に、ミヤは胸がとても苦しかった。

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2024年11月24日 20:00
2024年11月26日 20:00
2024年11月28日 20:00

魔王ルートを回避した転生者は神様に見守られながら今日も前向きに生きていく ミラクルくるくるくる @r_musuka

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