香草チーズカツレツ
森の奥深くまで入り込んでしまったので、少し戻ろうと歩き始めたころ。
くぅ~~~…と可愛らしい音がミヤの腹から鳴り出した。
「おなか減りました」
「あぁ、すっかり狩りに夢中になっていたね」
「狩った獲物で適当に食うか」
「ごはんちゅくりましゅ!」
「近くを川が流れているようだからそこに出よう」
「おう」
ミヤのご飯は楽しみだねぇとフェンリルは尾を大きく振りながら歩き出す。
ミヤはアイテムボックスに手を突っ込みながら、今朝ガインからもらった食材を吟味している。
さて、何を作ろう…。
お昼は肉で決定なのだが、それをどうやって料理するか。
ガインのおかげで食材は豊富なのだ。
(さっき鳥獣の卵も手に入れたしチーズもあるから、カツレツでも作ってみようかな)
と、言うわけで。
今朝受け取った豚肉のようなビッグボアの肉と、フェンリルとガインで解体した羊のような魔獣、インフェルノシープの肉を魔導キッチンに並べてミヤのクッキングタイムの開始である。
「なぁ、俺は何を見せられているんだ?」
「うん? ミヤが料理しているところだけど、それがどうかしたかい?」
「いやいやいやいや…っ! だからお前ら何なんだよっ!? そうじゃねぇよ! なんだこれ!? キッチン!? なんでキッチン出てくんだよっ!?」
と、魔導キッチンに驚いているガインだが、ミヤはアダマンタイト製のよく切れるナイフで肉を切るのに必死であまり聞こえていない。
(このナイフめっちゃ切れてほんと助かるんだけど、私にはまだ大きいんだよね)
気をつけないと、あっさり指を切り落としてしまいそうなので真剣にならざる終えないのだ。
豚肉と羊肉をトンカツよりは薄めに切っておく。
肉を叩いて柔らかくしたいのだが、キッチン下にはミートハンマーのような物はさすがになかった。
「フェンリルしゃま、ハンマーみたいな道具ありましぇんか?」
「ハンマーかい? さすがに持ってないねぇ…。何に使うんだい?」
「お肉をたたきましゅ。叩くと柔らかくなりましゅし、火のとーりが速くなりましゅ」
無いなら仕方ない。なくても大して問題ないから。
でも、あると料理の幅も広がるのでいつか手に入れたい。
肉に塩とコショウをし、足元の戸棚から大きめの木のボウルを取り出し、そこに先ほど手に入れた鳥獣の大きな卵を割り入れ溶いておく。
大きな木皿を戸棚から取り出し、そこにパンとチーズを削り入れ、フェンリルからもらった香草のパセリとバジルを細かく刻んで入れる。
フライパンを2つ取り出し、身体強化でオリーブオイルの油の壺を抱えて少し多めの油を流した。
「て、手伝うか?」
「だいじょーぶでしゅ! あ! お箸ちゅくってほしいでしゅ!」
「「オハシ?」」
ミヤは木の枝で地面に「このくらいの長さで、太さはこのくらい、先端が細いのを2本」と描いた。
「これが『オハシ』か?」
「2本必要なのかい?」
「あい、2本で1組みにしてちゅかいましゅ。2本で1じぇん(膳)でしゅ」
「「1ジェン?」」
ミヤの料理の手際の良さを眺めていたフェンリルとガインは、良くわからないが料理に使うものだろうとその辺に落ちていた木の枝を広い、フェンリルが風の魔法で乾かし、ガインがカバンから取り出したナイフで削って箸を作り上げた。
最後にクリーンの魔法をかければ完成。
「しゅごい! しゃい箸(菜箸)だっ! ありあとーごじゃいましゅ!」
菜箸を受け取ったミヤは2つのフライパンをコンロに乗せ、肉を溶いた卵にくぐらせ、生のハードパンで作ったパン粉をまぶし、熱した油で肉を次々揚げていく。
「おいおいおいおい、なんだこのいいニオイ…」
「楽しみだねぇ」
(よしよし! いい感じ! 残りはチーズを挟んで少し豪華にしよう)
カツよりも薄いので、火はすぐに通る。
パン粉に混ぜたバジルとパセリに熱が通り、チーズの香りと合わさって周囲に食欲を駆り立てるニオイが広がった。
大きな皿に、レタスに似たグリーンリーフを敷き、カットしたトマトも並べて揚げたてのカツレツを並べれば、
「お待たしぇしました! ビッグボアとインフェルノシープの香草チーズかちゅれちゅでしゅ!」
「「おぉぉぉ~~!!!」」
いつの間に用意したのか、ミヤが振り向くと川沿いに大きな布が広げられている。
おそらくフェンリルの持ち物だろう。
ガインが皿を運んでくれるので、ミヤはアイテムボックスからガインが持ってきてくれた丸いハードパンを並べ、あまったチーズも添えて置く。
「では、生命に感謝! いただきましゅ!」
「いただきます」
「…なんだそれ?」
「私の住んでいた場所でのお祈りみたいなものでしゅ。生命をいただくこと、食事を用意してもらったこと、すべてに感謝をこめて手を合わせてから『いただきましゅ』って言いましゅ」
「ほう…。いただきます」
「あい!」
揚げたてあつあつのカツレツ。
噛めばサクッじゅわぁと口いっぱいに旨味が広がった。
「うめぇぇぇっ!? なんだコレ!? なんだこれっ!?」
「うんうん! 美味しいねぇ!」
「おいおいおい! なんで肉がこんな味になるんだよ!?」
「香草はそのまま食べるには香りがキツすぎたけど、こうして料理に使うと全然違うんだね」
大成功である。
パン粉のサクッとした歯ごたえの後にじゅわぁっと肉汁が溢れて濃厚なチーズと一緒に旨味が口いっぱいに広がる。香草の香りが鼻を抜けるとまた変わった味わいが広がり、いくらでも食べられそうだ。
「おぉ!? こっちは肉の間に挟んだチーズの塩気がきいてて最高だなっ!」
「添えられた野菜との相性もとてもいいねぇ」
「フェンリルしゃま、ガインしゃん、パンに野菜と一緒に挟んでサンドイッチにしても美味しいでしゅよ」
ミヤが見本にと作った即席サンドイッチをフェンリルに差し出せば、パクンと一口で食べられてしまったが、「おぉ…!」と美味しさに目を見開いている。
ハードパンは小麦の香りが強いので、カツレツと一緒に食べるとまた違った味わいになって美味しいと思ったのだ。
マヨネーズなどがあれば、更に色んな味わいを楽しめるので、後でガインに街に売っていないか聞いてみよう。なければ自分で作ってみるのもきっと楽しいだろう。
「うっめぇぇぇぇ!!」
自分で作ったサンドイッチに豪快にかぶり付いているガイン。フェンリルは「ミヤ、私にもう少しサンドイッチを…」と、何処か遠慮がちに言ってくる。
そんなフェンリルが可愛くてミヤは満面の笑みでサンドイッチをこさえていく。
ガインもフェンリルも、旨い旨いと繰り返し、大皿2つ山盛りに揚げたはずのカツレツはあっという間になくなってしまった。
「旨かった。いや、ほんとに、こんな旨い料理はじめて食った」
「私もだよ。昨晩のコカトリスの香草焼きも美味しかったけれど、こちらは複雑で濃厚な風味がして更に美味しかった。パンに挟むと違った味わいを楽しめるのも本当に良かった」
「おい、なんだよコカトリスって。どんな料理なんだよ?」
んっふふふと、二人の反応にミヤも大満足だ。
「夜も美味しいものちゅくりましゅ。楽しみにしててくだしゃい!」
「うん、楽しみにしているよ」
「お、俺も一緒にいいか?」
「もちろんでしゅ! ご飯は大勢で食べる方が美味しいでしゅ!」
夜は何を作ろうか。
ミヤも十数年ぶりにする料理が楽しくて仕方なかった。
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