二度目の死

此処は?

皆、無事ですか!?

助かった…のか…?

いったい何が起こって…

…そうだ、魔王! 魔王!



5人の使徒の声を聞きながら、京子はぼんやりと自分の側に駆け寄ってくるデイルカーンを眺めていた。


「おいっ! 魔王っ! 魔王っ!!」

「……ああああーんぁぁ…(デイルカーンさん…)」

「お前が私達を逃がしてくれたのだな!? 転移の魔法が使えたのだな!?」

「ぁぁ…、あぁんあぁああ、ああん?(へへ…、分かんないけど、多分?)」


デイルカーンは京子の側で膝をつき、地面に転がる魔王の頭を拾い上げた。

その顔についた土を服の袖で払い眉間に深い皺を刻んで魔王を見つめる。


京子の目は、もうほとんど見えていなかった。

それでも、デイルカーンの後ろに星空が広がっていること、土と草の香りがすることに安堵していた。


「あぇあ…、あぁああ…(逃げて、遠くに…)」

「……逃げろと、言っているのか?」

「あぁ…、あぇあ…、あんぁ…(うん…、逃げて…、みんな…)」


魔王の首を支えるデイルカーンの元に、他の4人の使徒も集まった。

デイルカーンを囲むように彼らもその場に膝をつき、魔王の様子を見つめていた。


「あぇあぁ…、あぁああ…(逃げてね…、遠くに…)」

「逃げろと…、いや、私たちに『生きろ』と言ってくれているのか……?」


デイルカーンのその言葉に京子は『違う』と答えようとしたが、そっちの言葉の方が良いなぁと、考えた。


彼らは信じていた女神に裏切られ、殺されかけたのだ。

宗教における信仰とは、人によっては『心の拠り所』ともなりえる物のはずだ。

なら、信じていた女神に裏切られ、絶望してしまった彼らにとっては『生きろ』の言葉の方が心に届くかもしれない。


今は聞き間違えてくれた方がいいかなと思い、京子は歪な口元に薄っすらと笑みを浮かべた。


(デイルカーンさんの手…、大きくてあったかいなぁ…)


異型の生物として生まれ変わってしまったが、そんな自分でも温かい人の手の中で死ねるのだから、短い人生(?)もそう悪いことばかりじゃなかったと…。



魔王だった京子は、5人の使徒に囲まれながら、静かにその短すぎる生涯を終えた。

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