もしかしたらそう遠くない未来、私たちを待っているかもしれない世界の物語
- ★★★ Excellent!!!
AIによってすべてがコントロールされ、統治された世界━━それは、今まさにAIにまつわるニュースが世間をにぎわせている私たちの生活のずっと先に実現しているかもしれない世界です。『ユーピテル=ベクトル』は、そんな未来社会を揺るがす大きな厄災のはじまりと、さらにその未来を描き出した物語です。
「いつからこんなろくでもない世の中になったのだろう」
一見穏やかに平和に見えるけれど、その実、超格差社会である現実に、いつもため息をついていた主人公の少年・有斗。しかし彼の運命は、対戦格闘ゲーム『ジェネシス』の決勝トーナメントに参加したことをきっかけに、大きく変わることになります。彼はそのろくでもない世界を救う戦いに、自らの意志で突き進んでいくことになるのです(♡戦いのパートナーの、強くて可愛い女の子とのアオハル展開もありますよ♡)。
有斗たち主人公をはじめ、方法は違えど、ろくでもない世界を何とかして変えたいと懸命にもがく人たちの群像劇でもあります。
現実世界と、その世界をコピーしたAI世界と。双つの世界を巧みに織り込んだ物語の流れは私には新鮮で、読み進めるごとに惹き込まれました。「観測者の皆様」とページの向こうから呼びかけられる時、読者はいつの間にかこの物語世界を俯瞰して眺める存在へと変わっていることに気づくはずです。
長い物語のラストに用意されたマルチエンディング。観測者のあなたはどれを選ぶでしょうか?