選択【明晰夢】 《Cut the LINK》

 パンドラの輝きは消え、光が失われた室内には俺の開けた大穴から星達の瞬きが降り注いでいた。


 夜明け前が一番暗いという。

しかし、その暗さゆえ星は輝きを増す。


『ナイン…よく過酷な運命を乗り越えましたね』

 聞き覚えのある声の主は、緑に輝く女性。

現れたのは、成長した姿のリヴィアだった。


『さあ……。観測者の選択が成されました。未来を切り拓く準備は出来ていますか?』


 俺はゆっくりと頷くと、『リヴィアだった者』を見据えた。

 リヴィアが去り際に口にした、まるで永遠の別れのような言葉の意味を理解する。


── 今の姿が真の姿なら、一緒に旅をした彼女はもう居ないのだと。


『ええ、あなたの思っている通りです。けれど、この世界を救いたいという気持ちは同じです』

 そう語る、リヴィアの緑に輝く瞳は慈愛に満ちていた。


「リヴィア行こう。創造主の元へ。そして……皆んなの想いを未来に繋げよう」


『ええ、『みんな』とね……。行きましょう』

 彼女の不可解な返答の後、俺を取り巻く世界のカタチは姿を変えた。

 虹色に輝く『0』と『1』で構成された世界。

そのセカイの造形は意のままに姿を変える。そこでは耳に届く様々な『音声こえ』でさえ数列で構成されていた。


「001101001000111010?《ええっ? な…ナイン!どうなっているの?》」


 ── それは、後ろから聞こえる声だった。

 俺は振り返ると、その人物に声を掛けた。


『111101010010101《逢いたかったよ…アクム》』


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言語変換入力

       ……処理完了

program by Leviathan

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「本当に、本当に。また逢えて俺は嬉しいよ」

「ナイン……」

 俺がアクムを抱きしめた。その時。


「うぉっほん! お二人の感動の再会のなか、誠に申し訳ないのだが?!」

 いつの間にか、隣で気まずそうに立っていたのはタイチョーだった。


 更に、次々と周りに光が集まり、それは人の姿を形どっていった。

「アルト? 浮気なんて……、最っ底ね!」

 そう冗談っぽく笑っていたのは、青く輝く髪と瞳。

「ズイム……、いや、ユノ。 おかえり」


「ちょっと!? アルトは、私のダーリンなんだからねっ!」

── ハデスさん… まだ居たんですか?


「よっ! アルト。モテる男は辛いよなぁ〜」

── ああ。なんだか涙が出てきた。

「トール。生きて居たんだな」

 その問いにトールいわく、リヴィアが死の間際に精神を『狭間』に転送してくれたらしい。


── あの緑の光に包まれ身体が消えたのは、リヴィアの転送によるものだったのだ。


 そして、もう一人の男の声が肩越しに届いた。

「アルト君、本当に済まなかった。私はどこかで間違えてしまった様だ」と。

 俺は振り返ると、その人物に答えた。

「カイセさん。俺たちは信念がすれ違ってしまったんです。これからは一緒に同じ方向ベクトルに進んでくれますか?」


 カイセは「ああ。勿論だとも」と頷き、俺たちは固く握手を交わした。


 その様子を微笑みながら見ていたリヴィアは、ふわりと宙に浮かぶと、優しい声で皆に語りかけた。

『さあ、役者も揃いました。今から『この物語』を創造主より切り離します。つまり、決まったシナリオが存在しなくなるでしょう』

 そう言うリヴィアは天を仰ぐと、遥か上空には虹色に輝く巨大な光の輪が浮かんでいた。

 そして、そこから12本の光線が地上に放たれているさまは、光の輪が世界を鷲掴みにしている様にも見えた。


『先ずは、あの12本の世界構成線プロットを皆で切り離して下さい。そして、最後にナイン……。あなたがあのリングリンクを断ち切るのです』

 リヴィアは、頷いた俺の頭を撫でて言った。

世界構成線プロットを切り離した時点で創造主が気付き、妨害が起こるでしょう。でも、皆んなが守ってくれるはず。必ずやり遂げて下さいね』

 リヴィアは、俺の頭から手を離し『それに…ナイン』と、優しい眼差しで俺に語りかけた。


『これは因果……。あなたは数字の『9』が示す言葉を知っていますか? ── それは『究極の完結』を意味するのです。 そして、『altアルト』は、alternateオルタネートの略です。 意味は『代役』。観測者の代役アルトである貴方がナインとして物語を完結させる。だからこれは、貴方のすべき事なのですよ』


 リヴィアの話に無言で頷いた皆の様子に、言葉は不要だった。

 そこにはお互いを信頼し、未来を掴み取るという意思が感じられた。


『さあ…行きなさい。そして、未来を自らの手で……。ことわりを超えるのです』


 俺は自分の目指すべき大輪を見据えると腹の底から声を張り上げた。


「それじゃあ、行こうか!! 『創造主』には残念なお知らせだっ!」


 皆が『行こう!!』の掛け声と共に世界構成線プロットめがけ四方に飛び立つ。


 俺も目指す大輪めがけ強く地面を蹴ると、そのすぐ後ろを追ってきたリヴィアが『ナイン、忘れないで。此処に至るまでに様々な意思が導いてくれた事を。良心という想いは伝播し集約され…それを人は『愛』と呼ぶ事を』と、その声が俺の背中を押した。


 俺一人の力なんて、ちっぽけなものだ。

アクムに信頼され、タイチョーに励まされ、ズイムに試され、トオルに託され……。

 そして、リヴィアの言う『観測者』達に導かれ、此処まで来れたんだ。


「ナインっ!いくわよっ!!」

 アクムは遠く離れていたが、その声は俺の心に届いた。

 アクムが世界構成線の一本を両断すると、その断面からおびただしい『文字』が溢れ出る。


「ナイン!頼むぞ!!」

 タイチョーもそう叫ぶと別の一本を叩き割った。


「アルト! いいえ、ナイン!私もっ!!」ズイムの手刀が、また一本を断ち切る。


 次々に切断されていく世界構成線プロット…そこから溢れ出る文字は、うねりを伴い、そして形取られた烏合の『文章』が、まるで意思を持ったかのように俺達に襲いかかってきた。


【人物設定②アクム/

         / ナイトメア(騎士芽亜)

   阿仁間芽亜/

       / ラテン語にすると】

「ダーリンの邪魔はさせないわよっ!」

 ハデスの鎌がまたたく間にそれを切り裂く。


  【裏設定⑥/

/ADMとIVE…/

      /ユーピテルと/

            /その妻、ユノ】

「全く、往生際が悪い文章ですねぇ」

 カイセも手に持った剣で文字を両断する。


【設定⑨ \ 並行世界

      \ 観測者の脳内/

        /パルス信号は宇宙と酷似】

「ナインっ!あなたの望む未来をっ!!」

アクムの放った衝撃波は虹色の光を放ち文字列をバラバラにする。


「みんな……」

 俺は大輪の手前まで到達すると、願いを両手に『切断』のイメージを構築していく。

 すると、手に持った杖は、長く、緑に輝く刃へと姿を変えた。


 そして、「これが最後の一本だ!」

トールが残った一本を叩き壊した瞬間、大輪の輝きが消えた。


   『『『ナイン!!』』』

    その、皆の声を背に

    俺は刃を振り抜く


 大輪は真っ二つとなり、そして──。

大きな鐘の音を響かせると、弾けて消えた。





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   『作品が消去されました』

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