【 観測者の皆様、聞こえますか? 】
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神は何故、悪魔や天使などの力あるものではなく、非力な人間をこの世界の固有種としたのでしょう?
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「始めましょう」
── なぜ、そうなるんだっ!
ズイムが空間を消して俺の目の前に現れる。俺はとっさにバックステップで距離を取るが、鋭い手刀が胸をかすり、鮮血が舞った。
「ぐっ、ユノ! 頼む、一緒に帰ろう!」
だが、俺の声は虚しくも届かない。
ズイムは無情に蹴りを放ち、空気を裂く衝撃波が巻き起こる。俺は防壁を張ってそれを防ぐが、衝撃と共に防壁が粉々に砕け、砂煙が舞い上がった。
「ユノっ!」
砂煙の中に人影が見える──と、気づいた時にはすでに遅く、背後から羽交い締めにされていた。俺の耳元で、ユノの囁きが聞こえる。
「アルト。やっぱり、あなたの背中はあたたかい。ねえ、お願い、私に…答えを」
「ユノ。なぜなんだ、何故、戦わないといけないんだ!」
困惑する俺の背後で、ユノは抱きついたまま小さく囁いた。
「少し…目を閉じて。私の想いが間違っているか、確かめて」
── ユノ。
俺が目を閉じると、ユノのイメージが俺の中に流れ込んできた。
……………………………………………………
そこは見渡す限りのゴミの山。多くの幼い子供たちがその中で鉄屑を拾い集めていた。
『ここがどこかわかる?』
ユノの姿は見当たらず、ただ声だけが響く。子供たちは赤黒いシミだらけのぼろぼろの服を身にまとい、汚れや血で染まっている。靴を履いていない者も多く、彼らの裸足には無数の傷があった。
「酷い…。なんて、ことだ…」
その子供たちの顔──。どう見ても、この国の子供達だった。
『これが、セクター・トウキョウの現実よ。あなたはこの国を変えると言ったわね。この子たちを救うと誓える?』
ゴミ山の中で、ひとりの幼い少女が倒れ込む。俺は、その顔に見覚えがあった。
近くにいた子供たちが集まり、「ああ、う?」と、訳のわからない言葉を口にしながら、その少女を抱え上げ、どこかへと運んでいく。
『この子たちは、言葉も教えられていない。それどころか、まともな教育すら受けていない。でも、死んでいった仲間を憐れむ気持ちは持っているのよ』
── これが…現実だと?
『私たちはここで、名も無き少女と出会った…彼女は死の間際、私たちに笑顔を向けたの』
……
『死が幸せだなんて…そんなことがある?』
……
『私は聞きたかった。死ぬのに、なぜ笑顔だったのかって』
そうだ。その少女は、エリだった。
『私はオリュンポスの蘇生データを使ったわ。彼女に言語プログラムをインストールし、疑問を投げかけたの。彼女は何と答えたと思う?』
……
『彼女は私を見て、天使が迎えに来たと思ったんですって。「みんな」を助けてくれると思ったって!だから私は…みんなを救わなきゃいけないの!』
「ユノ…。俺も、必ず救うよ。理想を上書きすることなく。なあ、『俺たち』で変えていこう、現実を一緒に!」
暫しの沈黙の後、ユノは再び語り始めた。
『私は、あなたに勝って世界を書き換えるわ。あなたはそれを阻止するなら、私を倒さなきゃいけない』
……………………………………………………
意識が戻ると、ユノの力が少し緩む。俺はすかさず距離を取りユノを見据えた。
「さあ、真剣勝負よ。アルト…」
「ユノ…」
刹那、ユノの猛撃が俺に襲いかかった。急所をかわしながらも、避けきれない攻撃が次々と体に刻まれていく。
「やるしか…ないのか」
俺は、緑の矢のイメージを構築する。連撃は止まないが、なぜかユノの表情は少し嬉しそうだった。
脚を狙うつもりだった。せめて動きを止めようと。
しかし、俺の放った緑の矢は──。ユノの左胸に突き刺さった。
「…あ……ありがとう」
体勢を沈め、ユノは自ら胸で矢を受け止めたのだ。
「ユノっ?! なぜ、そんなことをっ?!」
「私もわかってたのよ。書き換えなんて、やり過ぎだって。でも…退けなかった…あなたが創る未来を…見てみたかったわ…」
明らかに致命傷だった。
もう、ユノが助からないのは明白の事実。
「駄目だよ……。一緒に帰るって約束したじゃないか」
俺の言葉に、ユノは苦しそうに息をつきながら、悪戯っぽく笑った。
「アルト…最後に、キスの約束…守って…くれる?」
「二人で…… 無事に帰れたらな」
── 周りの風景が崩れていく。
「アルトの…意地悪。…それと…ごめんね…」
そう言い終えると、ユノは瞳を閉じた。
── 駄目だ…駄目だ… 駄目だッ!!
瓦解する風景。緑の光と共に消え去ってゆくユノ。
── そして、あたりは闇に覆われた。
•
•
そこに差し込む一筋の光。
その方向からエリの声が届いた。
『私はユーピテル…悲しき運命の者たちよ』
俺は、光に手を伸ばす。
『私とあなたには、この先を選ぶことは出来ないわ……。『
「どういう意味なんだ!エリ!」
『さあ、戻って。物語を…終わらせるのよ』
その声と共に、辺りは光で包まれた。
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── 神は望んだのね。事実をただ受け入れる強き存在でなく、弱さと想像力を持つ『人間』が、どんな『物語』を紡ぐのかを
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ぼやけた意識が鮮明になるとともに、粉塵の埃っぽい空気が鼻を掠め、視界には残酷な風景が広がった。
握ってくれていたアクムの手はひどく冷たく、彼女は浅い呼吸を繰り返していた。
その青白い顔の、
「あ、アクムっ!しっかりしろ! そうだ、タイチョー!……ぅ」
俺は叫びそうな想いを必死で堪える。
うつ伏せに倒れているタイチョーは微動だにせず、それは呼吸が停止している事実を告げていたからだった。
「…ナ…イン…ごめん…ね。最後は…あなたに…押しつけて…しまって…」
そう言って微笑むアクム。
「アクム。今まで…ありがとう……。あとは、任せておけ。絶対に、現実を救って、逢いに行くよ…芽亜。俺がセクター長になって、芽亜をセクター長夫人にしてやるからな!」
「…最後まで…ほんと、一言……いいえ、…嬉しい……待ってる…わ…」
その言葉を残しアクムは緑の光に包まれた。
そして、その姿は消えゆく。 同じくしてタイチョーの姿も。
── 生まれて初めてかも知れない。
これ程、感情のまま叫んだのは。
息が続かなくなっても、声が出なくなっても。
それでも俺は、叫び続けたんだ。
暫くして『アルト。
── そうだ…俺には、まだやる事が。
目を向けた先、女神の姿をしたズイムは抜け殻の様に倒れていた。
呼吸を整え、俺は立ち上がると、胸に刺さったコードを引き抜く。
それは、ズイムとの決別を意味していた。
「
ズイムも緑の光と共に消えゆくと、1人残った俺はパンドラに目を向ける。
『さあ、未来に進むために…私を破壊しなさい』
エリの声が頭に響く。
「エリも辛かっただろう。俺は、皆んなの分まで精一杯……。だから、安心してくれ」
俺は手のひらをパンドラに向ける。
お互いが最後に呟いた『さようなら』の言葉が、放った緑の光の中に溶け込み……。
そして消えた。
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── 人は、その弱さゆえに
── 人は、その強さ故に
その儚き夢の中で、物語の中で
意思を持ち、自ら行動する事を
運命を、自分で決める事を
──
それは、自らの手で未来を掴む行動であり
人が持つ 無限の可能性
── 私が、人に賭けた未来
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