言葉

 言葉は軽い。


 たとえ万感の思いを込めたとしても、1割ほどもその意味が相手に伝わればいいほうだろう。それどころか込めてもいない意味が伝わっていることだってある。

 物語を通じて理解していたつもりであったものが作者の意図ではなく、自分自身であったと以前書いたことと通じる話だ。


 言葉もまた、自らの手を離れた瞬間、誰かのものになっている。

 俺は、それに絶望した。

 言葉の無力さに、こんなものかと失望した。


 この話をするのは少々気が咎める。なにせ、今書いている小説の出発点なのだ。


 もしも、こんな無力な言葉にもっと力があったら。


 こんな場所で書くべきではないのではないかと理性が語りかけてくる。正論ではあるが、どうでもいい。同じことを二度三度と書いて何が悪い。もちろんできるだけ同じことを書かないようにはするつもりではあるが。


 普段からこんなことを考えているからかお世辞は苦手である。嫌いであると言ってもいい。

 なんて生きづらい性格をしているんだと笑ったことがある。でも、こんな人間がいたっていいとも思っている。

 俺は、言葉一つに命をかける。

 とは思っているものの、いざ死の間際になったら怖気づいて泣き出したり、もっとひどければ逃げ出すかもしれないとも思っている。それもいい。情けない人間もいたっていいのだ。

 そして、この考えを誰かに押し付ける気は微塵もない。むしろ、自分と対照的に言葉を軽く扱う人間は好きである。かつて絶望のどん底にあった俺を救ったのもそんなやつだった。


 そもそも、自分が言葉の軽さに耐えられないのは、人を信用することが苦手だからである。

 誰かに褒められたら、まず俺はその言葉が本気であるか疑うだろう。なぜ褒められたのか真意がなんなのか疑うだろう。でも、言葉を軽く扱える人間は、きっと素直に喜べるだろう。人を信用することができるからだ。

 俺は、そんな彼らを、自分にできないことができる彼らを尊敬する。

※10/31訂正 おそらく俺が言葉を重く扱おうとするのは共感力の強さゆえだ。


 人は千差万別である。

 正解はない。

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なんとなく 辻岡三郎 @sankitani

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