第13話

見ると、彼は首から下げた社員証を顔の前に持ち上げて笑っていた。



「木本 奈月。企画部です」



少年のような笑みで、よろしくね、と言うように首を傾げる。



彼が怒っていると思っていた夢は、少しぽかんとしていたが、すぐに自分の社員証を掲げ、



「経理部の、小野寺 夢です」



今度ははっきりそう答えた。



「よろしくお願いしますね、小野寺先輩。あ、隣にいたのは上司の坂口さんで、さっきまで一緒だったんですけどいなくなっちゃいましたね」



屈託のない笑顔を向けられても、夢はぼんやりしていた。



こんな、ピンチの後なのに…



彼の声は暖かい湯船に浸かるように心地よく、思考を止めてしまう。

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