EP.11 祝勝会、そして次の目標
喫茶レモネードに入ると、待ちくたびれた様子の長井パイセンとターバンが迎え入れてくれた。
「おう!遅かったな!」
「すんません、片付けにもたついてしまって」
「まあまあ、2人とも疲れとるやろしとりあえず座ってから話そや」
ターバンに促されるままにソファーに腰を下ろす。いったい何時から待っていたのだろう、長井パイセンの前に置かれた灰皿には山のように煙草の吸殻が積んである。
「その様子やと上手く行ったみたいだな」
多分今日の成功の喜びが顔に出ていたのだろう、俺は少し照れくさくなった。
「お陰様で何とか上手くやれました」
「改めてありがとうございます!」
ふみが深々と頭を下げるのを見て、俺も一緒に頭を下げた。今日こうやって成功出来たのも先輩2人のお陰だ。
「まあ俺らにかかりゃこれくらい楽勝よ、なぁターバン?」
「その呼び方辞めろ…まあとりあえずおめでとう」
普段は無表情なターバンも今日は少しだけ嬉しそうな顔をしている。そんな2人の掛け合いを見ていると俺も自然と笑顔になった。隣を見るとふみもとても嬉しそうに微笑んでいる。やがてターバンが飲み物を持ってきてくれて、4人でのささやかなパーティーが始まった。長井パイセンがどこからかウイスキーを取り出しラッパ飲みして大騒ぎを始め、それを少し不機嫌そうに諌めるターバンとそんな2人を見て笑う俺とふみの明るい笑い声が店内を包み込んでいた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去るもので、気が付けば窓の外は真っ暗になっている。この楽しい祝勝会もそろそろお開きだなと思うと、少し名残惜しい気持ちになる。
「卒業式が無事に終わったとなると、次は入学式だな」
ターバンに殴られて頭にたんこぶを作った長井パイセンが煙草をふかしながらそう呟いた。
「え?入学式も放送部の仕事なんですか?」
「ははは!そりゃそうだろ、卒業式を担当しといて入学式は無しとかねーから」
「じゃあまた特訓しなきゃですね」
ふみがそう言いつつ学生鞄から取り出したメモと睨めっこを始める。
「それに、入学式の後にはもっと大事な事があるからな」
ターバンがいつになく真剣なトーンで切り出した。俺はなんの事やらさっぱり分からず隣に座るふみへと視線を移すが、ふみの顔にも疑問符が浮かんでいた。
「…ったく、お前ら何にも考えてねーんだな」
少し呆れたようにターバンが呟く。すると困り果てた俺たちに長井パイセンが助け舟を出してくれた。
「入学式の後は新入部員の募集だろ?人数が増えりゃ今以上に活動の幅がひろがるんだから、しっかり勧誘しねーとな!」
確かに、言われてみればその通りだ。今は2人しかいない放送部だけど、人数が増えれば昼の放送に力を割けるだろう。それにアナウンス担当の女子が入れば俺も企画担当に専念する事が出来る。
「確かに、人数は多いに越したことはないっすね」
「うんうん」
「それによ、チョー可愛い後輩女子とかスーパーイケメンな後輩男子も入ってくるかも知れねぇぞ?」
長井パイセンのダメ押しの一言は、俺のやる気に火をつけるのには十分過ぎる威力だった。だがここでニヤニヤしてしまってはふみに軽蔑されるかもしれないと思いなんとか真顔を保っていたが、隣を見るとふみはキラキラした目で宙を眺めていた。残念ながら俺たちは似たもの同士らしい。
「さてと、次の目標も決まったことだし今日はそろそろ解散すっか!」
「あんまり遅くなると親に怒られるだろうしな」
「はい!今日は本当にありがとうございました!」
「昨日はあんまり寝れなかったから今日はぐっすり眠れそうです!ありがとうございました!」
改めて先輩2人に深々と頭を下げた俺たちはそれぞれの帰路についた。家に帰ると「遅くなりすぎ」と母から小言を言われたが、達成感に満ちた顔をしていたからだろうか、それ以上何かを言われる事はなかった。
翌日、担任の山下から入学式の進行に関するファイルを受け取った俺たちは再び特訓の日々に入った。それと同時に新入部員勧誘のポスターの制作にも取り掛かり、中学最初の冬休みは毎日が忙しく充実した日々となった。
そして迎えた入学式、少しの機材トラブルや俺のアナウンスの読み間違えなど問題もあったが何とか無事に乗り切ることが出来た。入学式の後はそれぞれの部活がアピールをする場が設けられたが、俺たちは全ての進行を担当していたのでアピールをする余裕は無く、その代わりに部室のドアや廊下の掲示板に何枚かのポスターを張り出してまだ見ぬ新入部員を待つことにした。ポスターにはふみを放送部に誘ったあの日に描いたイラストと同じものを描いた。俺とふみにとってはあの不格好なチラシが全ての始まりで、大事な思い出だったからだ。
「新入部員くるかな?」
「…分からないなー、来てくれるといいんだけど」
放課後、部室でそんな事を話しているとドアをノックする音が聞こえ、新品の制服に身を包んだ新入生が2人、部室へと入ってきた。
「…えっと、ここが放送部の部室ですよね?」
「お、おう。もしかして入部希望?」
「はい!」
「ぼ、僕もお願いします!」
こうしてどこか影のある少女と、見た目がヤンキーちっくな男子生徒が新しく放送部に入ってきた。
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