処方箋⑤~ベッカムヘアーでパリコレを狙う馬鹿~


 今回は、めちゃくちゃキツイことを言う。

 気持ちも高ぶっているから、口調も荒い。


 自分の書きたい作品を書けず、テンプレに逃げたビビりに対して、真の書き手になってもらいたくて、すんごいキツイことを言う。


 もちろんこれは、かつての自分に対しての戒めの言葉でもある。

 一昔前の自分を、ビール瓶でボコボコにしてから路地裏にぶん投げる、という想いで書いている。





「ニッチな小説を書きたいのに、人気になりそうなテンプレ作品の執筆に手を出しちゃった……」


「自分の趣味嗜好が全開になった物語を書いておきながら、PVが伸びないことに焦ってますぅ……」


「テンプレで上手くいっている作者、作品を横目に見て、羨ましがったり、悔しがったりしちゃう……」





 この文章を読んでいる人の中には、そういう気持ちの人、いるよな?


 もちろん今の俺も、その気持ちが少しある。

 以前の俺は、特にその気持ちが大きかった。






 だからこそ、今回は、


 それに悩んでいる人たちの高尚な悩みを、俺の下賤な言葉で、バラバラに打ち砕いてやりたいと思う。












 よし、じゃあ、こっから、髪型で例えて語ろうか。







 大衆受けするテンプレ作品を「ベッカムヘアー」


 と例える。


 ベッカムヘアーは、つまり、ソフトモヒカンだ。

 サッカー選手のデビッド・ベッカムが、ソフトモヒカンだったので、当時はけっこう人気で、色んな男性がやっていたヘアスタイルだ。


 簡単にできるし、たいていの人は、にカッコよくなれてしまう。


 (この、それなり、ってのが厄介だがな)




 次に、お前の書きたいニッチな作品を「モヒカン」とする。


 モヒカンはご存じの通り、北斗の拳に出てくるザコキャラがやる髪型だ。

 普通、こんな髪型するやつはいないし、いたとしたら特殊な仕事をしている人くらいだろう(普通のサラリーマンがモヒカンにしてたら、それはそれで怖い)。




 そして、創作者としてとんでもない大成功を収めることを、


「パリコレに出る」


 と例えようか。







 ――――で、お前さ。


 自分の好きで、モヒカンにしたんだろ?

 モヒカンが大衆受けしないことを知ってて、モヒカンにしたんだろ?

 モヒカンにしろ、って誰かに言われたわけじゃねえんだろ?

 今はモヒカンじゃないヤツも、理容室で「モヒカンで」って言いたいんだろ?






 だったら、モヒカンのまま貫けよ。書き切れよ。



 マイルドなソフトモヒカンにして、一時的なモテを狙うなよ。


 だって、街の中にいるアイツもコイツもソイツも、


 ベッカムを真似て、ソフトモヒカンに逃げているんだぞ?

 そいつはベッカムよりも、ベッカムヘアーが似合うのか?

 そんなやつが、パリコレに出るほどの成功を収めるのか?







 いや、もちろん、


 モヒカンにしたら、絶対にパリコレ出れるとは言わんよ?


 むしろ、そっちのほうが厳しい道だよね。


 俺もパリコレ知らないけど、モヒカンのモデルさんなんて、見たことないよ?


 コミケの、北斗の拳のコスプレイヤーぐらいでしか見たことないぞ?

 






 でも、


 でもよ、


 お前がベッカムヘアーにして、ありきたりなファッションを突き詰めて、


 パリコレに出れんの? 小説家、創作者として最高の成功を収められるの?







 いやー、厳しいんじゃないかな。



 だって、お前よりも顔がイケメンで、背が高いやつが、

 ベッカムヘアーにして、王道のファッションをキメて、


 そーいうヤツらが、パリコレに出ているんだぞ?

 

 お前がベッカムヘアーにしたところで、街コンでちょっと好印象をもらえるくらいじゃないの?


 



 


 え、なに、そんな小さなもので満足するために、苦労して小説書いているの?

 そのためだけに、一番やりたいモヒカンを諦めて、ベッカムヘアーに逃げているの?


 

 それで、死ぬ時に後悔しても、誰も責任取れんよ?



 お前がやんわりと「好みじゃないなあ」って思っているベッカムヘアーで勝負し続けて、結果、それで望むほどの成果を得れなくても、誰も責任とらないよ?


 無論、俺だって取れないよ。あんたがモヒカンにしようが、ベッカムヘアーにしようが、その結果は知らんよ。





 けど、


 もしも万が一上手くいったら、


 大好きなモヒカンのままパリコレに出れたら、


 その手柄もすべて、お前のモノ、になるよ。





 そもそも人生ってさ、


 失敗した時の責任は取らなきゃいけないが、


 成功した時の手柄は総取りして良いんだぞ。


 俺も、この文章を読んでくれた人がモヒカンでパリコレに出たからって、


「あいつはワシが育てたんだ。ふふん♪」


 なんてキモいことは言わないよ?


 自分でリスク取って、モヒカンで勝負したアンタが一番偉いもん。


 


 

 ここ以外の他の評論や創作論なら、こんな横紙破りなことは言わないかもしれないが、





 良作、なんて目指して楽しいか?


 良い、って、めちゃくちゃ半端だよ。


 一時的に成果をもらえるかもしれないが、


 多分、数年後には忘れられているよ。




 どうせ書くなら、どうせ頑張るなら、


 傑作、を目指せよ。小さくまとまるなよ。


 100年後も語られる作品を創ってみろよ。




 何が言いたいかっていうと、



 ベッカムヘアーに逃げて、街コンでモテる程度の成功を狙うな。


 モヒカンが映えるスタイルを突き詰めて、パリコレを目指せよ。



 ってことだ。



 俺も、俺のモヒカンスタイルを突き詰める努力をするよ。




 鈴木 貫太朗(旧、鈴村ルカ)

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