処方箋④〜足るを知る。ただし野心は捨てない。


 題名の時点で矛盾してると思うだろう。

 もちろん一見すれば矛盾している。


 足るを知る、という言葉は「不足していることをクヨクヨと嘆いていないで、現状に感謝することを忘れるな」という意味だ。


 野心、という言葉は「大きな望み(あるいは身の丈以上の望み)」という意味だ。


 けど、この現代社会で小説を書く上で、この一見した矛盾こそが必要だと思う。



 まず、足るを知るというところから説明。

 

 これを読んでいる方の大部分は日本人で、大体は雨風のしのげる場所で生活し、一般的な食事にありつけていることだろう。戦争や紛争に巻き込まれて殺されそうになったり、劣悪な労働環境で死にそうになることもないはずだ。

 もちろん家庭環境とかが特殊な方だったり、今現在で困窮している方もいると思うが、そこはひとまず置いておく。


 で、だ。


 この飢えない、殺されない、そんな環境下で、これ以上なにを望むんだ?


 みんな、あくせく働いて、なんとか時間を作って小説を必死に書いていることだろう。俺もそうだ。

 そういう生活が悪いわけじゃないし、むしろとても尊敬している。SNSでアンチコメントを垂れ流すような輩より、何か創作を行っている人のほうがよっぽど尊い。





 けど、世界のどこかでは、俺やみんなよりも恵まれない人たちがめちゃくちゃいる。

 食うのも、飲むのも、寝るのも、生きるのもままならないような人たちがいる。


 じゃあ、そういう人たちと比べたら。


 俺たちは、ずいぶん欲深い存在だ。

 これだけ恵まれた生活を送っているのに、さらに余暇を使って創作にいそしみ、他人に読んでもらって「賞賛」してほしいと思っている。


 場合によっては、大作家になって、大金持ちになりたいと夢想している『欲しがりさん』すらいるだろう。俺のことだが。




 だから、俺はあえて言いたい。


 創作する前に、日常の当たり前のことに感謝しといたほうが良い。


 具体的には、書く前に、




「病気にならずにデスクに向かえる俺、ありがとう」


「急に親が亡くなったりすれば、葬儀とかでバタバタするよな。執筆時間がある今日に感謝」


「家に泥棒が入ったりしない、原稿が奪われたりしない、治安の良い国に住めてありがたいなあ」




 このように小さな当たり前に感謝すると、面白いことが起こる。


 その日、書く文章の質が上がるのだ。


 もちろんいきなり文豪のようになれるわけじゃない。


 けど、その当たり前のことを理解してから、野心を燃やした方が上手くいくし、何より長続きする。



 そもそもさ。



 みんな、苦しむために小説を書いてるの?

 みんな、何か義務感で小説を書いてるの?

 みんな、今も苦悶して小説書いているの?


 マゾなの?



 違うだろ。



 もっとみんな、満足しながら熱狂できるだろ。


 充足しながら、飢えることは、矛盾じゃない。

 充足しながら、飢えることは、矛盾じゃない。



 今日はこのへんで。

 

 久々に更新したから、息切れしてしまったから、これ以上苦しくなる前にやめることにするよ。


 次回もお楽しみに。

 




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