第27話 ミリーの覚醒

《三人称視点》


「あぐっ!」


 宙を泳いだミリーの身体が、勢いよく地面にぶつかる。

 稲妻が絆を貫いた衝撃で、絆はミリーを離してしまったのだ。


 よろよろと起き上がったミリーは、思わず息を飲む。

 ――絶望的な光景だった。

 堅牢なダンジョンの壁や天井はいくつものクレーターを刻んでボロボロに崩れ、稲妻により焼け焦げている。


 そして、暴走して我を失ったケルピーは、未だ健在。正気に戻る気配もない。

 そんな父の目の前には、ミリーを庇ってボロボロになった名も知らぬ少年がいる。


「私の、せいだ……」


 ミリーは、震える声でそう呟いた。


 自分の娘も傷つけようとしている本末転倒な状況だが、その理不尽を嘆いたところでどうしようもない。

 なにより、ミリーは自分に危険が迫れば怒りっぽいケルピーである父が大暴れすることは知っていた。


 下級のモンスターに石を投げられ、ちょっと怪我をしただけで、父はそのモンスターを巣ごと灰燼に帰したからだ。

 それが今回は、明確な殺意を持って冒険者に危うく殺されそうになった。そんな状況であれば、こうなってしまうことは簡単に想像がつく。


 だから――


「逃げてください! やっぱりこうなったのは私のせいなんです! あなたが傷付く必要なんてない! これは私が招いた――」

「何度も言ってる! 君は何も悪くない!」


 罪悪感に押し潰されそうになっていたミリーに、しかし少年は力強く否定する。

 ボロボロになり、今日初めて出会ったミリーのために命をかけて戦ってくれた人が。


「この状況は絶対なんとかするから、だから君は何も心配しなくていい!」


 今にも倒れそうになりながら、必至に声を張り上げている。

 そんな、底抜けにお人好しの背中が、すごく格好良く思えて。

 だからこそ、心臓を握りつぶすほどに苦しくなる。


 もう、あと一撃でも喰らえば命すら危ない状況だというのに、なんの関わりもないミリーをこれ以上悲しませないように戦う少年のことを思うと、どうしようもない自己嫌悪に陥る。


(私に、もっと力があれば!)


 未だに、まともに起動すらできない固有スキル。

 それが酷くもどかしい。自分は、誇り高き“最強種”のはずなのに。


「お父さんもうやめて! 私は生きてる! その人に助けて貰って生きてるの!! だからやめて! その人だけは殺さないで! お願いッ!」


 ミリーは喉が割れんばかりに叫ぶ。

 そんな叫びも虚しく、ケルピーは絆へ向けて一歩踏み出して――


『ヒヒィイイイイイインッ!』


 高く嘶き、その口に破壊の光を溜めていく。

 先程、絆を穿った雷魔法だ。

 あれを喰らえば、絆はおそらく――


「やめて! お願いだからやめてよぉおおおお!」


 ミリーの叫びは届かない。

 ケルピーの口の正面に展開された魔法陣から、極太の稲妻が放たれ――


「いやぁああああああああああああッ!」


 ミリーの瞳から雫が散り、乾いた地面を叩いた――その刹那。

 小川の水が、叫びに応じた。

 生き物のようにうねり、一直線に稲妻と絆の間に滑り込む。


 水の塊は破壊の光から絆を守り切り、彼の周囲に浮いていた。


「……え」

「これって」


 ミリーと絆の呆けたような声が重なる。

 《水流操作》。

 今まで起動すらできなかった人魚の固有スキルが、ことここに至り覚醒する。

 

 

 

 

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ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件~知らない間にバズって大変なことになってるんだが~ 果 一 @noveljapanese

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