第24話 厄災、来る
「げほっ、ごほっ……あ、ありえねぇ。んだよこれ。一体、なんだってんだよ」
ケンちゃんは、目玉を不規則に揺らしながら、息も絶え絶えに呟く。
僕は無言で彼の元へ寄っていくと、ケンちゃんは「ひっ」と小さく喉をならした。
「別に僕のことを悪く言うのは勝手だ。今後も好きなだけ罵ってくれればいい」
もちろん、僕だってバカにされて傷付かないわけじゃない。
バカにしてきたことを許すなんて、寛大な心は持っていない。
ただ、僕の事情なんかどうでもよくなるくらい、頭の中を埋め尽くす感情があった。
「ただし……」
僕は、その感情に従ってケンちゃんの胸ぐらを掴み上げ、自分でも驚くくらい底冷えする声で告げた。
「シャルやミリーさんに手を出したらどうなるか。よく覚えておけ」
「っ」
恐怖により目を見開いたケンちゃんは、今度こそ何も言えなくなってしまう。
もうコイツに用はない。
無理矢理にでもミリーさんに土下座させたいところだが、コイツ自ら行わないと意味が無いのだ。
だから、そこまで面倒を見てやる道理はない。
僕は踵を返して、ミリーさんの方へと寄っていった。
「ケガはないですか?」
「は、はい。大丈夫です」
小さく震えていた少女は、僕を上目遣いで見つめながら答えた。
「あの……助けていただき、どうもありがとうございました」
「いえいえ。お礼なら、シャルと母親にでも言ってください」
今回に関しては、僕が手を出さなくてもなんとかなっただろう。
僕はただしゃしゃり出て、バカを懲らしめただけだ。
しかし――
僕は、ミリーという名の人魚を見る。
改めて見ても、可憐な人魚だった。
年の頃は、人間換算で言うと12、3歳くらいだろうか。
シャルが8,9歳くらいの少女の見た目だから、シャルよりも年上ということになる。
そして――そこそこ大きい。
何がとは言わないが、この年齢にしては発育がちょっと良すぎやしないだろうか?
「あ、あの……あまり見られると恥ずかしいのですが」
と、僕の(いやらしい)視線に気付いたからか、ミリーさんが頬を赤らめてもじもじとする。
「え、あ、ごめん! つい見とれてしまって――」
「うぇ!? み、見とれたなんてそんな――」
慌てて弁明したが、更にミリーさんは赤くなってしまう。
と、急に耳に激痛が走った。
「い、いでででで! ってシャル! なんで急に耳を引っ張るの」
「べーつに。なんとなく耳を引きちぎりたいと思っただけじゃ」
「えぇ……」
なんという理不尽。
シャルは拗ねてしまったらしく、ぷいとそっぽを向いてしまう。
シャルの奇行はともかく、これでなんとか一件落着だ。
ほっとした僕は……不意に、違和感を覚えた。
人魚母の姿に、だ。
娘を救出して、全て事が片づいたはずなのに。
「どうされたんですか?」
「――手遅れみたい」
「……?」
「間に合わなかった。あの人が来る」
そのとき、僕は思い出した。
忘れていた。もの凄く重要なことを。
「まさか――」
その瞬間、ダンジョンが凄まじい音と共に振動する。
地震大国の日本に住んでいてなお、これほどの揺れを観測したことが、過去あっただろうか。
それほどの絶望感。
そして――正面の壁が、吹き飛ぶように向こう側から破られた。
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