第23話 絆VS剣砥

「ぐぼあっ!?」


 肺の空気を一気に押し出されたケンちゃんが呻く。


「て、めぇ!」


 激高したケンちゃんが拳を振るう。

 その手にはバチバチと雷属性魔法による紫電が弾けていて。


「痺れろ! 《サンダー・アーツ》!」


 腐っても、ウチのクラス最強の冒険者。

 僕には扱えない高レベルの魔法を所有している。

 触れれば全身に電気が駆け巡り、気を失うのは必至。

 けれど――僕はそれを正面から受け止めた。


「なっ!」


 驚愕に目を見開くケンちゃん。

 

「ば、かな。なんで痺れねぇ……ん、おい。なんだよそのうろこは!?」


 ケンちゃんは、雷を纏った拳を易々受け止めた僕の手を見て呻く。

 僕の手には、びっしりと《龍鱗》が生えていた。

 Sランクモンスターの一撃をも防ぎ、“最強種”の攻撃をもいなす鉄壁の防御が炸裂する。


「くっそ! 《ウィンド・ブラスト》!」


 すかさず距離を取ったケンちゃんが、風属性魔法ウィンド・ブラストを放つ。

 肉薄する突風の砲弾。こちらは《ファイア・ボール》を放って迎え撃つ。


 ドンッ!

 凄まじい音と共に、炎と風が真っ向から衝突した。

 その威力は拮抗――するはずもなく、あっさりと相手の風を飲み込んだ炎が、ケンちゃんに向かって迫る。


「ばかな!」


 咄嗟に回避したケンちゃんの横を炎の玉が掠め、後ろの岩を粉々に消し飛ばした。


「ちっ……なんだよこれ。どうなってやがんだよ!? テメェこれまで弱かっただろ! ちくしょう、コケにしやがって! 弱いヤツはただ、俺みてぇな強者にひれ伏してればいいんだよぉおおおおおおお!」


 プライドをズタズタにされたのだろう。

 ケンちゃんが吠え、その手に再び紫電をまとわせて突っ込んでくる。


「ぉおおおおおおおおおおおっ!」


 おそらく、彼が今撃てる全力の一撃。

 それでも――僕がスキルには届かない。

 再び《龍鱗》にあっさりと阻まれる。それが、ケンちゃんの限界だと示すように。


「なあ、ケンちゃん。少し強いからって調子にのるのは結構だけどさ」


 僕は、ケンちゃんの拳を払いのける。

 それだけであっさりと体勢を崩されたケンちゃんは、無防備な腹を曝した。


「くっ!」

「世の中には、君なんかよりずっと強い力を持っていて、それでも君なんかよりずっと優しい子がいるんだよ」


 僕は、《龍鱗》を纏わせた拳を力一杯握りしめる。

 所詮、僕の力は借り物だ。

 “最強種”であるシャルの力を借り受け、ただ行使しているに過ぎない。


 冒険者としては失格なのだろう。

 これは、僕が努力で培った力じゃないのだから。


 だから、僕は自分が強いとは思わない。驕ったりもしない。

 ただ――それでもこのスキルの強さは、誰よりも深く信用しているし、信頼している。

 誰よりも強く生きている優しい少女のことを知っているから、僕は君なんかには負けない。


「だから、ちゃんと反省しろ! 君の行いを!!」


 力一杯、拳を振り抜いた。

 思い音がケンちゃんの腹に弾ける。

 咄嗟に防御のスキルを起動したようだが、それも児戯に等しい。

 衝撃波が彼の胴体を突き抜け、身体をくの字に折り曲げたケンちゃんの身体ガ、水平にカッ飛んで行く。


「が、はっ!」


 背後の壁に強くたたき付けられ、そのまま半分身体をめり込ませるケンちゃん。

 致命傷ではないが、しばらくは動けないだろう。

 僕は、ゆっくりと拳を下ろすのだった。


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