第18話 有罪です
気のせいか? 今、私の娘とか言ってなかったか?
「あ、あの……」
「なに? 一応弁明は聞いてあげるわ。そのあとで八つ裂きにするけど」
ぎろりと睨んでくる人魚母(推定)。
うわぁ~美人が怒ると怖いな、なんて呑気なことを考える余裕などなく、僕は恐る恐る切り出した。
「恐れながら状況が読めてないんですが。僕はただ、この場所に人魚姫が囚われているから助けに来ただけで……」
「はぁ? 囚われているもなにも、実家なのだから当然でしょう?」
その答えに僕は絶句する。
言われてみれば、違和感は最初からあったと思う。
シャルと人魚の会話がどこか噛み合っていなかった気がするし。
ていうか、ボスが人魚の時点でその可能性に気付くべきだったのだ。
「えぇと、つまりこれは僕等が100%悪いわけで……」
僕はじろりと、シャルを睨む。
腕の中で幸せ心地とばかりに顔を蕩けさせていたシャルだったが、ビクリと肩を振るわせた。
「ち、違うのじゃ旦那様! 妾は嘘などついてはおらぬ! 第一、そこの人魚が過保護すぎて自分の娘を外に出そうとしないから、妾が冒険というものを教えてやっただけじゃ!」
「……ふ~ん。ほ~う。で? お母様の許可は貰ったのかな?」
「え、いや。あの……ふひゅーふひゅー」
目を逸らして口笛を吹き始める
僕はハイライトの消えた瞳でシャルを見た後、一言呟いた。
「……
シャルの首根っこを掴み、人魚の目の前へ差し出した。
「え、ちょ、旦那様?」
「――というわけで、煮るなり焼くなり好きにしてくださって大丈夫です」
「へぇ。物わかりがいいのねあなた。嫌いじゃないわ」
人魚は、艶めかしく舌なめずりをして、シャルに近づく。
「だ、旦那様の裏切り者ぉおおおおおおおおおおおおッ!」
シャルの絶叫が辺りに木霊した。
――少しはお灸を据えないとね。これも、契約主である僕の勤めなのだ。
僕は心を鬼にして、シャルを法廷に送り出した。
――。
それからおよそ5分後。
無事お尻ペンペンの刑に処されたシャルが、自身の尻をさすりながら、僕の方へ戻ってきた。
「うぅ……酷いぞ旦那様ぁ」
「仕方ないでしょ。シャルが勝手に連れ出したんじゃ、親御さんが怒るのも当然だって」
「そんなこと言ったって、ミリーも了承してるのじゃぞ」
「ミリー? ……ああ、その人魚姫の名前か」
本人が了承してるなら連れ出してもいい……なんて道理になるのか?
半分くらい誘拐だぞそれは。
とはいえ、シャルの言いたいこともわからないではなかった。
シャルが怒られている間の問答を聞いていたのだが、どうやらこの人魚母、ミリーさんとやらを生まれてから数えるくらいしか家の外に出していないらしい。
いわゆる、かなりの過保護なようだった。
人間の常識がモンスターに当てはまるのかはわからないが、子どもの頃というのは多感で好奇心旺盛な次期だ。
外に出られない鬱憤が溜まるミリーと、それを連れ出すシャルの気持ちがわからないわけではない。
「娘を外に出したくない事情みたいなのがあるんですか?」
そう聞くと、人魚母は困ったように眉根をよせた。
「あの子……まだ人魚の固有スキルがちゃんと使えないのよ」
「固有スキルですか」
確か、《水流操作》と《
「ええ。ダンジョンは危険だわ。いくら“最強種”と言っても、モンスターに襲われて殺されることもある。人間に遭遇すれば襲われる。肩身が狭いのよ、私達って」
「ふん。そんなピンチ、そうそう陥るものか。妾達はダンジョンの頂点に立っているのだぞ?」
とりあえずシャルさん。
僕との出会いをしっかり思いだしてから言いましょうか?
「攻撃も防御も優れていて空も飛べる貴方たちドラゴンはまだいいでしょうけど、私達人魚はそこまで強くない。まして、水から上げられればほぼほぼ無力となってしまう。《水流操作》を極めれば、空気中の水分を操ることもできますが……あの子は、湖の水を操ることすらままなりません」
人魚母は、大きくため息をついた。
母親なりに、いろいろ悩んでいるのだろう。
「つまり、ちゃんとスキルを使えるようになるまで、危ない外の世界には出したくないから、仕方なくってことですか?」
「そういうことになりますね。だから……」
じろりと、人魚母はシャルを睨む。
「早くミリーを返してください。わかっているんですよ。今日、あなたがあの子を連れ出していることは」
「「……え?」」
それを聞いて、僕とシャルは顔を見合わせた。
「ま、待て。おぬし何か勘違いしておらぬか? 妾はいつも通り、彼奴を連れ出しにきたまで。まだ今日はミリーと会ってすらおらぬぞ」
それに対し、今度は人魚母が面食らったような顔をする。
「そんな。嘘をつくのはやめなさい。私があの子の部屋を見たとき、既にもぬけの殻でした。だから、あなたがこっそりあの子を連れ戻したときのために、裏口に衛兵を配置していたのに……」
いつもはいない衛兵がいたのは、そういうわけだったのか。
しかし、となればかなりマズい状況じゃないか?
「あの……これマズくないですか? だって、今スキルをうまく使えないミリーさんが、広大なダンジョンのどこかを一人で彷徨ってるんですよね?」
「「…………」」
――場の空気が、凍った。
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